2022/02/13

第5部 山の街     9

 「先刻のセニョール・ミラネスは、貴方の”目”か”耳”ですね?」

とケツァル少佐が尋ねた。ケサダ教授は微笑を浮かべたが肯定も否定もしなかった。彼は着替えた繋ぎを入れたらしいリュックサックを肩にかけ、テオと少佐を眺めた。

「まさか、遺跡を見学に来たと言う訳ではないですね?」

 少佐が傷ついたふりをした。

「私はこれでも考古学を学んだ人間ですよ、教授。新発見の遺跡の近くへ来たら、見たくなるのは当たり前でしょう。」

 テオも頷いて見せた。

「俺が見に行こうって彼女を誘ったんです。」
「だが、オルガ・グランデに来た本当の目的は別でしょう。」

 ケサダ教授が歩き出したので、2人は付いて行った。薄暗い教会から外に出ると陽光が眩しかった。少佐が大股で歩く彼の横に並び、早口で言った。

「昨日、陸軍病院でピューマと出会しました。」
「そうですか。」

 教授は動じなかった。無関係だと言いたげに歩き続けた。少佐が珍しく彼に揺さぶりをかけようとした。

「彼は仕事をしくじった様です。大統領警護隊内部調査班と鉢合わせして、一悶着あった様です。」
「内部調査班?」

 教授が歩調を全く崩さずに彼女を振り返った。

「大統領警護隊の内部で何か失態がありましたか?」

 テオは普段通りのケサダ教授のポーカーフェースに少し苛っときた。

「大罪人に尋問しようとして、彼は失敗したんですよ。そこに内部調査班が来た。」
「大罪人とは、穏やかではないですね。」
「ええ、大統領警護隊は絶対に真相を外部に知られたくないでしょう。」
「でもピューマの耳に入っています。彼はどれほどの大罪なのか、理解しているでしょうか。」

 不意に教授が立ち止まったので、少佐とテオは勢いで数歩前に進んでしまった。振り返ると、教授が尋ねた。

「あなた方は私に何を求めているのです?」


0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...