大統領警護隊遊撃班は、逃亡した大罪人ディンゴ・パジェを追跡した。アスクラカンのサスコシ族には戒厳令が敷かれ、2日間外出を禁じられたそうだ。
エミリオ・デルガド少尉はファビオ・キロス中尉と組んでパジェ家がある地区と川を挟んだ地区を担当した。そこにサスコシの族長シプリアーノ・アラゴの地所があり、デルガドは顔見知りとなったミックスのピアニスト、ロレンシオ・サイスにディンゴ・パジェを警戒するよう注意しに訪問した。するとアラゴの妻が、彼女はディンゴの顔を知っていたので、農園の向こうのジャングルへ入って行くディンゴを見たと証言した。
直ちに遊撃班はジャングルで山狩を行った。一般人の立ち入りも禁止され、アスクラカンの農村地帯は緊張感に包まれた。
デルガドはキロスと共にジャングルの中に分け入った。2人共海辺育ち、都会育ちなのでジャングルでの捜索活動はかなりの緊張感を伴う任務となった。
途中でキロスが水の木を見つけ、彼等は短い休憩を取った。その時、デルガドは森の中を歩く白い物を見たような気がした。
彼はキロスに気になるものを目にしたので、確認して来ると言った。勿論会話は全て”心話”だ。キロスはデルガドが見たものを”心話”で見て、青くなった。
ーー見てはならないものだ。
と彼はデルガドに警告した。
ーー追うな。
しかし、デルガドは白い物を追った。キロスはついて来なかった。
真っ白なジャガーがデルガドの前を歩いていた。斑紋すらない純白のジャガーだった。ジャガーは途中で立ち止まり、彼を振り返ったが、逃げるでもなく、怒る訳でもなく、再び歩き始めた。デルガドはそれを誰かのナワルだと確信した。ジャガーもディンゴ・パジェを追跡しているのだ。
デルガドは気を放ってキロスを呼んだ。数分後にキロスが追いついた。彼はやはり白いジャガーと関わりを持つことに抵抗を示したが、大罪人を追わねばならない。2人は結局白いジャガーに導かれ、ディンゴ・パジェが身を潜めていた茂みを発見した。
そこからの捕物は2人の遊撃班の精鋭の活躍だった。ディンゴ・パジェは抵抗したが、所詮戦いには素人だった。キロスとデルガドは彼を生け捕ることに成功した。大仕事をやり遂げた彼等は、白いジャガーが姿を消していることに気がついた。
キロスはデルガドに新たな警告をした。
ーーさっき見た物は誰にも語るな。あれは聖なる生贄となる者だ。古の儀式は既に廃止されたが、あの者は誰にも知られたくない筈だ。見た物を忘れろ。
話を聞いたテオは内心デルガド達を羨ましく感じた。 白いジャガーを目撃したなんて、物凄い幸運じゃないか! 彼は興奮を隠してデルガドに尋ねた。
「それで、君は考古学の先生に何の用事なんだい?」
「ここのケサダ教授は一族の方でしょう。見てはいけない物を見てしまった時、どうすれば良いのか、教えてもらいたいのです。」
テオは微笑した。
「その答えは、キロス中尉から言われたじゃないか。語るな、忘れろ、だよ。」
デルガド少尉はちょっと不満顔だったが、やがて、「そうですね」と納得した。
「教授に語ったら、掟を破ることになります。」
「俺にも言っちゃったな?」
「忘れて下さい。」
テオとデルガドは青空の下で笑った。
1 件のコメント:
テオはここで白いジャガーが、彼が白いピューマだと勘違いしていた人のナワルだと気がついていない。
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