2022/03/25

第6部 七柱    9

 「え?! どう言うことですか?」

 テオは座り直した。ガルソン中尉は寧ろ彼の驚きが意外だったようで、

「オエステ・ブーカには知られている伝説ですがね。」

と言った。 彼は整備士達がぼちぼちと仕事に取り掛かる準備を始めるのを眺めながら語った。

「古代のマスケゴ族は人口が多くて、北部一帯に広く住んでいたそうです。彼等は建設関係の仕事が得意で、今でもそうですが・・・」
「ロカ・エテルナ社とか・・・」
「スィ、メスティーソでもマスケゴ系の先祖を持つ会社が他にも多くあります。現在のクエバ・ネグラ辺りに住んでいたブーカ族の祖先の家系の一つが、岬に仮館を築きました。仮館と言うのは、海を渡って来た異邦人を迎える迎賓館みたいな物です。それを建築したのが、マスケゴの職人達でした。やがてそこに住んでいたブーカはその土地に価値を見出さなくなり、仮館を放棄して西へ移動しました。マスケゴの職人達も一緒について行きました。そのブーカの一族は現代のオエステ・ブーカとは直接繋がりはありませんが、我々の祖先とは接触があったので、彼等の海辺の故郷の話が伝わったのです。マスケゴはそのまま現代のオルガ・グランデ周辺に住み着きました。」
「海辺の土地を手放した理由はわかっていますか?」
「恐らくハリケーンや、地震による津波が多かったので、見切りをつけたのでしょう。”シエロ”がいなくなってから、”ティエラ”がやって来て、岬の仮館を利用して神殿や建物を増やしたのです。」

 そこでガルソン中尉はテオにグッと顔を近づけた。

「これは噂ですが、最初のブーカ達はマスケゴに侵略者が来た時に備えて仮館にある仕掛けを作らせたそうです。それが何かわかりませんが、岬が沈んだことと関係あるのだろうと、オエステ・ブーカに内緒話として伝わっています。これはマスケゴには聞かせられないのです。技術屋集団の秘密を我々が知っていると言うに等しいですからな。」
「しかし、仕組みそのものはわからないのでしょう。」
「当然です。」

 ガルソンが笑った。テオは初めてこの男が含むものを持たずに笑うのを見たような気がした。世間話でリラックスしているのだ。笑うと意外に可愛い顔だ、とも思ってしまった。10歳以上も年上なのだが、ガルソン中尉は相手との年齢差はあまり考えない人の様だ。ムリリョ博士や年寄りの先住民達のように、目上に対する礼儀がどうのとか、煩く言わない。

「ケツァル少佐がクエバ・ネグラに行かれたと聞いて、その仕組みがわかって、”ティエラ”に知られないように始末に行かれたのかと思いました。」

 ガルソン中尉は文化保護担当部の役割も承知していた。

「仕組みがわかれば、きっと事件は早く解決するでしょうが・・・」

 テオは肩をすくめた。

「考古学者だけでなく、得体の知れない外国人が海底遺跡に興味を抱いている様なんですが、何故だと思いますか? 連中は沈没船や宝物を探している様に言うのですが、俺は彼等が本当の目的を言っていないと思うのです。」
「恐らく、古代の建築の仕組みを解明しようとしているのでもないでしょうな。」

 ガルソン中尉は携帯電話を出して時刻を確認した。そしてボソッと言った。

「レアメタルでも探しているのかも知れません。」

 テオは地質学に詳しくなかった。だが、わかっていることはあった。

「レアメタルが埋蔵されているなら、それはセルバ共和国の財産で、外国人に権利はありません。」
「その通りです。」

 ガルソン中尉が立ち上がったので、テオも立ち上がった。中尉が言った。

「外国人達があまり騒ぐと”砂の民”が動き出します。とばっちりを受けないよう、用心なさい。」
「グラシャス、気をつけます。」


0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     18

  ディエゴ・トーレスの顔は蒼白で生気がなかった。ケツァル少佐とロホは暫く彼の手から転がり落ちた紅い水晶のような物を見ていたが、やがてどちらが先ともなく我に帰った。少佐がギャラガを呼んだ。アンドレ・ギャラガ少尉が階段を駆け上がって来た。 「アンドレ、階下に誰かいましたか?」 「ノ...