2022/03/10

第6部 水中遺跡   17

  焼きそばを食べ終わる頃に、テオはモンタバル教授とンゲマ准教授の元にかかって来た奇妙な問合せの電話の件を語った。モンタバル教授に電話がかかって来たことはケツァル少佐とギャラガも以前教授自身の口から聞いていたので知っていた。ンゲマ准教授は最近のことなので、ちょっと驚いた。ギャラガはムリリョ博士が専任の教授となるし、講義対象もヴェルデ・シエロがセルバを支配していたと考えられる古代遺跡の研究なので、比較的年代が新しい遺跡を研究しているンゲマ准教授とはあまり馴染みがなかった。

「ンゲマ准教授の専門を考えると、クエバ・ネグラ沖の海中遺跡は少し年代が古くなるのではありませんか?」
「電話の主は遺跡より沈没船に関心があるように聞こえます。」

とデネロスが言った。彼女はスパゲティみたいにフォークに焼きそばを巻き取ろうとしたが、この店の焼きそばは短いのでちょっと難しそうだった。だからフォークで掬って食べていた。おかげで口周りにソースがベタっと付いてしまい、紙ナプキンを何枚も消費しているのだ。

「沈没船の噂は聞いたことがないなぁ。」

とテオは言った。

「海の底に昔の街が沈んでいることは住民も知っているけど、サメがいるし、漁師が魚を獲るか、ビーチで水遊びをする程度の場所だ。住民は水深の深い場所まで行かない。潜水漁より網で量をする場所だ。」
「沈没船があれば、もっと以前から噂が流れていると思います。」

 するとアスルが呟いた。

「沈没船ではなく、海底資源のことじゃないか?」

 全員が彼に注目した。

「チャールズ・アンダーソンとか言う男も遺跡ではなく、海底に埋蔵されている物を調査したいと思っているのかも知れない。」
「すると・・・」

 ケツァル少佐が考えた。

「放置自動車を運転していた人物は、アンダーソンか電話の主の仲間で、先行調査のつもりで海に入り、そのまま行方不明になった可能性もありますね。」
「サメに食われたとか・・・?」

 暫く一同は沈黙した。
 ウェイターがデザートに香りの良い中国のお茶とセルバの果物を使った色彩豊かなゼリー寄せを運んで来た。デネロスが注文したマンゴープリンではなかったので、彼女がそれを告げると、ウェイターが言い訳した。

「マンゴーがお昼に完売。今日は仕入れが少なかった。」

 少佐がゼリーを口に入れて微笑んだ。

「これで構いません。美味しいです。」
「グラシャス。」

 ウェイターがお辞儀して奥に戻っていった。デネロスも苦情を言うのを止めて、素直にゼリーを食べた。アスルが彼女に自分のゼリーを差し出した。

「俺の分も食って良いぞ。俺はお茶を買って来る。」

 彼は店内に入って行った。
 ギャラガが少佐に言った。

「クエバ・ネグラの件は発掘許可が出る迄、我々には関係ない話と考えて良いですか?」
「関係ありません。」

 少佐はあっさり言い切った。そしてテオを見た。

「トカゲはもう採取場所に戻したのですか?」
「スィ。スニガ准教授が自分で放しに行った。本当は捕獲した場所に放さなきゃいけないんだが、彼はきっと入り口付近で放してしまうだろうな。」
「学生にやらせれば良いのに。」
「洞窟の中に入るには文化・教育省の許可とガイドが必要なんだ。きっと彼はその手間を省いたんだろう。」

 それにスニガ准教授はちょっとしみったれだ、とテオは心の中で呟いた。学生を連れて行けば、それなりにお金がかかる。
 アスルがお茶が入った紙袋を持って出てきた。そしてテーブルに着くなり、彼は少し興奮気味に報告した。

「おい、中国人って、サメを食うって知ってたか?」


0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     18

  ディエゴ・トーレスの顔は蒼白で生気がなかった。ケツァル少佐とロホは暫く彼の手から転がり落ちた紅い水晶のような物を見ていたが、やがてどちらが先ともなく我に帰った。少佐がギャラガを呼んだ。アンドレ・ギャラガ少尉が階段を駆け上がって来た。 「アンドレ、階下に誰かいましたか?」 「ノ...