2022/03/13

第6部 水中遺跡   23

  テオは日曜日にゴンザレスを市内観光に連れ出すつもりでいた。しかしゴンザレスは研修会で出会った警察学校時代の同級生がアスクラカン南部で署長をしていると知り、彼と一緒に車で帰ると言って、昼前にグラダ・シティを去って行った。朝ご飯にアスルが作った焼きそばを大量に食べて行ったので、アスルは上機嫌だった。

「あんたの親父さんは良い人だな。だけど、俺に嫁を世話しようとするのだけは止めさせてくれ。」

と言ったので、テオは笑ってしまった。エル・ティティにはゴンザレスの親戚がいて、年頃の娘達の結婚相手を探しているのだ。大統領警護隊の中尉となれば嫁の来てがいくらでもいるだろうが、姪っ子をもらってくれないか、と朝食の時にアスルはゴンザレスに声をかけられ、危うく喉を詰まらせるところだった。
 日曜日は自由時間だ。テオは自宅前に迎えに来た友人の車に乗ったゴンザレスを見送り、それから散歩がてら西サン・ペドロ通りに向かって歩いた。歩きながら電話をかけると、ケツァル少佐はアパートで退屈していたので、すぐに外に出て来てくれた。
 商店街まで歩いて、どこかで昼ごはんを食べようと言うことになり、2人は話しながら暢んびり街中を歩いた。少佐はデネロスのオクタカス遺跡発掘監視報告の概要を語り、最後にムリリョ博士がモンタルボ教授の資金集めを知って不機嫌だったと告げた。

「ですから、大学で彼に出会ったら、用心して下さいね。不機嫌な博士は学長も避けて通りますから。」

 テオは思わず笑った。そして彼も公園でケサダ教授と娘のアンヘリタと出会ったことを語った。教授が海中の遺跡に全く興味を示さないことへ疑問を感じたと言うと、少佐はアスルが言った3つの理由を教えてくれた。3番目の理由は、テオの興味を大いに引いた。

「カラコルの町はヴェルデ・シエロの呪いで海に沈んだのか・・・」
「伝説がどこまで真実なのかわかりませんが、全国の全てのヴェルデ・シエロが呪えば、地震も起こせたのでしょう。」
「それでグラダ大学の教授達はモンタルボ教授の研究に知らんぷりをしている・・・ンゲマ准教授はヴェルデ・ティエラだったと思うが・・・?」
「ンゲマ准教授はジャングルの遺跡が専門ですから。」
「そうだった。俺の乏しい考古学の知識によれば、オクタカス辺りの遺跡はカラコルより後の時代のものだったなぁ。」

 モンタルボ教授は可能な限りの資金集めをして、集まる金額から発掘調査隊の規模と装備を算定し、それから再び発掘申請を出すのだろう。
 教授に奇妙な資金援助を持ちかけて来た会社や奇妙な問い合わせ電話の主は、カラコルの町にあったと考えられる財宝を狙っているのかも知れない。モンタルボ教授が発掘許可を得た時に、そんな連中が集まって来るのだろうか。


0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     18

  ディエゴ・トーレスの顔は蒼白で生気がなかった。ケツァル少佐とロホは暫く彼の手から転がり落ちた紅い水晶のような物を見ていたが、やがてどちらが先ともなく我に帰った。少佐がギャラガを呼んだ。アンドレ・ギャラガ少尉が階段を駆け上がって来た。 「アンドレ、階下に誰かいましたか?」 「ノ...