2022/03/19

第6部 訪問者    13

  ケツァル少佐とギャラガ少尉は町の名前の由来となった「黒い洞窟」クエバ・ネグラがある黒い岩だらけの丘の頂上へ登った。徒歩だったので、てっぺんに着いた時は既にお昼になっていた。2人共汗ぐっしょりだったが、気にせずに岩の上に上って海を見下ろした。
 海中遺跡があると言われているポイントは、楕円形のお盆をそのまま水中に沈めたような形に見えた。岬の形に海底が盛り上がってお盆の縁を形成している。内側が深くなって丘の上から見ると真っ青な池が海の中にあるかの様に見えた。昨日モンタルボ教授の一行があの中で潜って海底を撮影したのだ。

「凹んじゃってますね。」

とギャラガが素直な感想を述べた。環礁の様にも見えるが盆の縁の外側もそれほど深くなさそうだ。礁の部分は浅いのだろう。だからあまり漁師が近づかない。船底を引っかけそうな水深なのかも知れない。

「自然現象だと思いますか? それとも誰かが力を加えて凹ませたと思いますか?」

 少佐の問いかけに、ギャラガは額に手を翳して海面を見つめた。

「自然現象でしたら、あんな風にシンメトリーに凹んだりしないでしょう。」

 彼は指で空中に線を描いた。

「珊瑚礁が成長しているので近くで見るとわからないと思います。しかしここから見ると、窪んだ部分は縦長の八角形です。真ん中に線を引けば綺麗に左右対称になります。」

 少佐も目を細めて陽光に煌めく海面を見つめた。そしてギャラガが見て取った海底の形状を彼女も見た。確かに、と彼女は彼の発見を認めた。

「人工的に形成された場所に見えます。すると一つ疑問が浮かびます。地震であんなに綺麗に壊れるでしょうか。或いは、気の爆裂を用いて、あの様な形に町を沈めることが出来たでしょうか。」
「カラコルの元の意味を考えると、町の建設段階で何か地下に大きな空洞を造ったか、それとも故意に空洞の上に町を築いたと推測されます。モンタルボも古代の言語の意味を研究している筈ですし、この丘の上から海を見て、あの不自然に綺麗な海底の形状に気がついてカラコルの実在を確信したのでしょう。カラコルは”ティエラ”の町だったそうですが、一番最初にあの位置に町を築いたのは何者でしょうか。」

 ギャラガの言葉にケツァル少佐は視線を海から部下に向けた。

「今回の強奪事件は宝探しの争いではなく、もっと古い時代に原因がありそうですね。」

 ギャラガが頭を掻いた。

「それを調べるのは難しそうですね。グラダ大学の考古学部は海の遺跡に興味を持たないし、もしかすると海の遺跡を禁忌の場所にしているのかも知れません。」

 少佐が溜め息をついた。

「またムリリョ博士が何か隠していると言うことですか・・・」
「あの方はセルバの生き字引です。でも決して全てを教えて下さることはありません。」
「禁忌なら、決して教えて頂けないでしょうね。」

 少佐は街並みを見下ろした。ギャラガが尋ねた。

「銃弾を呼ぶように、撮影機材を呼べませんか?」

 彼女が吹き出した。

「そんなことをしたら、住民が腰を抜かします。」

 でも、と彼女は笑い顔を消して、また町を見た。

「”操心”を使った者を呼び出せるかも知れません。」


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