翌朝、朝食の後アスルが先に出勤し、テオは少し遅く家を出た。主任教授から試験問題で1箇所だけ手直しが必要だと言う内容のメールが来ていた。それが単語のスペルの誤りなのか、それとも問題そのものが不適切なのか、メールではわからなかったので、ちょっと気が重かった。
大学の駐車場で車から降りた時、スニガ准教授と出会った。
「雨季休暇で何か予定があるかい?」
と訊かれたので、特にないと答えた。
「休暇は、いつもエル・ティティに帰っている。向こうの方が湿気が少ないから過ごし易いんだ。」
するとスニガが期待を込めた目で見た。
「湿気が多くてすまないが、またクエバ・ネグラの洞窟に入ってもらえないかな? 洞窟内の撮影をして欲しいんだ。トカゲの棲息環境を比較したくてね。」
「構わないが、無料ではないぜ。トカゲの生態は専門外だし、トカゲの遺伝子も興味がないから。」
その時、近くに来て停まった車から一人の男が出てきた。アングロサクソン系の男性だ。薄いベージュの襟付きシャツにデニムのボトム、スニーカーのラフな格好をしていた。彼はサングラスを外し、テオとスニガの方へやって来た。
「こちらの大学の方ですか?」
と綺麗なスペイン語で話しかけて来た。テオとスニガが同時に「スィ」と答えた。すると男性がさらに尋ねた。
「考古学部はどちらへ行けば良いですか?」
スニガ准教授が事務局の方を指した。
「まず、あちらの事務局で受付してもらって、それから訪問される相手の名前を告げて下さい。そうすれば、案内してもらえます。」
男性は「グラシャス」と言って、歩き出した。彼が十分遠ざかるのを待ってから、スニガが呟いた。
「考古学者に見えないな。」
「そうかい?」
「だがよく日に焼けている。野外で活動している人間だ。」
彼はテオに向き直った。
「バイト料は払う。撮影する時間で時給と言うのはどうだい?」
「交通費と宿泊費も欲しいな。」
しみったれで名を馳せるスニガ准教授が顔を顰めたので、テオは笑った。
「わかった、わかった、交通費で手を打つ。撮影時間の時給と交通費だ。で、どの程度の映像が必要なんだ?」
詳細は後ほどメールで、と言うことで話がまとまり、2人は生物学部へ向かった。
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