どのくらいの時間眠ったのか定かでない。目が覚めたのは、上掛けが重たくて寝返りを打てなかったからだ。寝返りを打てない・・・?
テオは目を開き、顔を上げた。彼の胸あたり、隣に頭を置いてケツァル少佐が寝ていた。テオは一瞬自分達は何処にいるのだろうと考えてしまった。首を動かし、自宅の己の寝室だと確認した。室内は暗かったが、住み慣れた部屋の様子はわかった。彼は体を横にずらし、なんとか上掛けから出た。寝るときに上掛けを被った記憶がなかったので、少佐かアスルが掛けてくれたのだろう。しかし、何故少佐がここで寝ているんだ?
ケツァル少佐は仕事帰りなのかTシャツにデニムボトムだった。テオの靴が脱がされていたように、少佐も素足だった。穏やかな表情で眠っていたので起こすのは可哀想に思えたが、この現状を理解したかったので、テオは彼女の肩を軽く叩いた。
「少佐、起きてくれ。」
うーん、と小さく声を立てて、少佐が目を開いた。滅多に見せない寝起きの表情だ。ぼーっと布団の表面を眺め、それからガバッと上体を起こした。
「今、何時ですか?」
テオは照明を点けた。壁の時計を見た。
「午後8時17分? かな・・・」
「ああ、良かった。夜が明けたかと思いました。」
テオは彼女を繁々と眺めた。
「君がそんなに眠り込むなんて珍しいな。」
「油断しました。」
ケツァル少佐はベッドから降りた。テオのベッドで彼の隣で寝た言い訳をしないで部屋から出て行こうとしたので、テオは声をかけた。
「何か用があったんじゃないのか?」
彼女が足を止めた。
「用がないと来てはいけないのですか?」
「それは・・・」
テオは返事に窮した。交際しているのなら兎も角、まだそんな仲では・・・そんな仲になっているのか?
彼が返事を躊躇っていると、少佐は髪を手で整えながら、廊下に出た。
「晩御飯に行きましょう。アスル、起きなさい!」
アスルも寝ていたのか・・・。すると寝ていたのはほんの1時間程度だ。テオが帰宅した時、アスルは食事の支度をしないでテレビを見ていた。テオは、彼はもう夕食を済ませたのだと思っていたのだ。
家の外にケツァル少佐のベンツが駐車していた。まだ疲れた顔をしていると自覚があるテオと、昼寝ならぬ夕寝を邪魔された、ちょっぴり不機嫌なアスルを後部席に乗せて、ケツァル少佐はベンツの運転席に座った。
彼女は真っ直ぐ市街地に行かず、坂道をちょっと登り、そこでロホを拾った。助手席に座ったロホは後ろを振り返り、「お帰りなさい」とテオに挨拶してくれた。
走行中、車内が静かだったので、テオは我慢出来ずに誰にともなく質問をしてみた。
「この夕食は計画的なものかい?」
アスルは答えず、ロホはちょっと間を置いて「スィ」と答えた。それから解説した。
「当初は少佐と私だけで、ある人と面会する予定でした。けれど貴方が帰宅されたとアスルから連絡をもらったので、少佐に報告すると、少佐が面会相手に貴方の同席を打診されたのです。結局貴方とアスルも加えて食事をしようと言う話になりました。」
「すると、もう1人店で合流するんだな?」
「1人なのか、2人なのか、わかりません。」
と少佐が言った。
「先方は『私達』と言われたので。」
テオは現在進行形の事柄を考え、なんとなくこれから会食する相手の正体に見当がついた。
「マスケゴ族の人だな?」
彼が呟くと、少佐が首を振った。
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