2022/04/04

第6部 七柱    27

  グラダ・シティに向かって走る車を運転したのは、テオだった。大統領警護隊の車両なので本当なら民間人の彼が運転するのは隊則違反なのだが、ケツァル少佐は運転する気分でなかった。

「”操心”の尋問に対して嘘で答えられることは不可能だと、わかっています。でも、アンダーソンの答えは本当に信じ難いです。」

 少佐が愚痴ったので、テオは苦笑した。

「北米には、と言うか、この世には、常識で考えられない思考形態の人間がいるんだよ。他人が見てどんなに笑おうが、彼等は真剣なんだ。それが彼等だけの生活範囲で留まるなら、誰も文句を言わない。だが、他人に迷惑をかけると訴訟沙汰になる。他人を傷つけるのは問題外だ。アンダーソンもロイドも大人しく海に潜ってカメラを回しているだけなら、誰も文句言わないさ。喧嘩して相手を刺したから、大騒動になった。モンタルボもこの件で被害者だな。」

 そして彼はニヤッと笑った。

「本当に、古代のマスケゴ族は、カラコルの地下に核爆弾をセットしなかったのかい?」
「馬鹿なことを言わないで下さい。」

 少佐がうんざりした声で抗議した。

「マスケゴの技術者達は、地下の大空間に7本の巨大な柱を設置して、地面を支えたのです。」
「7本の柱?」
「スィ。グラダ、ブーカ、オクターリャ、サスコシ、マスケゴ、カイナ、グワマナ、各部族の能力の大きさに合わせた太さの柱です。」
「なんで君がそんなことを知っているんだ?」

 すると少佐がケロリとした顔で言った。

「”ヴェルデ・シエロ”の遺跡の特徴です。大なり小なり、何処の遺跡でも、7本の柱で神殿の中心部を支えています。」
「”曙のピラミッド”も”暗がりの神殿”も・・・?」

 テオは深い地下で見た神殿を思い出そうと試みた。だが、当時は仲間を守り、生き抜くことに夢中で柱の数など眼中になかった。
 少佐が頷いた。

「一族が共有する場所は全て7本の柱で支え、我等は一つなのだと言う象徴としています。」
「わかった。それで、カラコルの地下空洞も7本の柱で支えられていたんだな。」
「その筈です。そして8世紀、カラコルの町が神を冒涜した時、ママコナの怒りの声を聞いた当時の”ヴェルデ・シエロ”達が一斉に呪ったのです。それぞれの部族の柱が折れるように、と。」

 グラダ族はその時、絶滅していた。だから、”ヴェルデ・シエロ”全員でグラダの柱も破壊したのだろう。

「ジャングルなどで発掘される遺跡の神殿が崩れているのも、柱が折られたからかい?」
「恐らく。”ティエラ”の遺跡は様々な要因があるでしょうが、”シエロ”の遺跡は放棄される時に意図的に破壊されたのだろうと、ムリリョ博士はお考えです。」

 ロカ・エテルナ社は、カラコルの海底にその7本の柱の痕跡が露出していないかを心配したのだ。テオは2000年以上も昔の先祖の仕事の後を心配する民族を、ある意味気の毒に思った。出来るだけ自分達の生きた痕跡を隠さなければならない民族。普通は、残して後世に見せたいと思うだろうに。

「岬が崩れた本当の理由が7本の柱の崩壊だと知ったら、アンダーソンもロイドも気分が沈没しちまうだろうな。」

 少佐がやっと明るい顔になって、クスッと笑った。
 

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