2022/06/01

第7部 渓谷の秘密      15

  墓と思われる蟻塚はそれ程の数でもなく、赤く変色していたのは最初に見つけた一つだけだった。テオはあれっきり声も臭いも感じ取れなかったし、”ヴェルデ・シエロ”達も何も見つけられなかった。ただ、ケツァル少佐が人間が歩いた踏み跡とタバコの吸い殻を2本見つけた。テオは慎重にその吸い殻をビニル袋に収納して、リュックサックに仕舞った。

「こんな奥地に来てタバコを吸っていたなんて、尋常じゃないな。」

と彼が感想を述べると、そうでもないですよ、とロホが苦笑いした。

「国境が近いですから、隣国の住民の居住地区がここから歩いて3時間の距離にあります。」
「それじゃ、悪霊使いは隣国から来たのか?」
「古代は国境がありませんでしたからね。カブラ族は隣国にもいるし、今は往来がなくても植民地化前は普通に往来していたでしょう。」

 少佐が肩をすくめた。

「ケサダ教授の研究分野です。」
「陸路の交易路か・・・」

 テオは南の空を見た。

「向こうにも”シエロ”はいるのか?」
「子孫はいるでしょう。でもママコナの声を聞ける能力は失われていると思います。夜目が利く程度でしょう。周囲と異なる能力を持っていると、仲間の近くにいる方が生き安いですから、かなり古い時代にセルバ側へ子孫達は移動した筈ですよ。」

 普通の人間の中で育った少佐が言うと説得力があった。テオは近くの蟻塚に視線を下ろした。

「それじゃ、悪霊使いは”ティエラ”と考えて良いのかな?」
「油断禁物ですが、私は一族の波長を感じませんでした。ですから”ティエラ”の異能者だと思いたいです。」
「私もです。」

とロホが同意した。

「”ティエラ”の異能者にも厄介な力を持つ人がいます。己の能力に気がついてそれを使いこなせる人間が一番手強いです。戦い方が私達と違いますからね。」

 普通の住民の墓地と思われる場所は見つからなかった。罪を犯さない住民は家族の近くに埋葬されたのだろうと少佐とロホは話し合った。テオは、昨夜宿泊した遺跡とこの日見つけた古代の町の跡や罪人の墓地跡を思い出し、ジャングルの中に大きな人間の生活場所があったのだなぁと感慨深く思った。
 再び遺跡のキャンプへ戻った。戻りながらテオは町の遺跡の写真をさらに撮影した。ンゲマ准教授に見せ、ケサダ教授にも土産に見せるつもりだった。ンゲマ准教授はサラの存在を確認しただろうか。
 夕刻、遺跡のキャンプに戻ると、大学のキャンプはちょっと興奮した雰囲気が漂っていた。アレンサナ軍曹に尋ねると、准教授と数名の学生がメサに登り、サラの石を落とす開口部らしき箇所を発見したのだと言う。
 早速テオと少佐はンゲマ准教授のところへ行った。ンゲマ准教授は彼等を見て、幸せそうな笑を見せて出迎えた。

「見つけましたよ!サラに違いない!」
「穴でしたか?」
「蓋をされていますが、円形の穴がメサの上にあります。後は洞窟の中に入って、中に円形の審判の部屋があることを確かめて、天井の穴とメサの穴が同一の物であることを確認しなければなりません。蓋を崩す訳にいきませんから、計測が必要です。」

 クエバ・ネグラの海底遺跡を発見したサン・レオカディオ大学のリカルド・モンタルボ教授に負けない興奮度だ。テオは取り敢えず「おめでとうございます」と言った。少佐は慎重に、「洞窟に入る時は、必ずクワコ中尉を同伴して下さい。」と忠告を与えた。


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