2022/06/29

第7部 取り残された者      15

  2日目の夜も外のテントで寝た。テオはケサダ教授やコックのパストルはどんな風に寝るのかと興味があったが、2人共普通に折り畳みの簡易ベッドや地面にマットレスを置いて寝ていた。ケツァル少佐みたいに木に登って寝るのではなさそうだ。尤も彼等は軍人ではないし、町で暮らしているのだ。ハンモックよりベッドで育った口だろう。村人はどうしているのかと思ったが、家族が多い家はハンモック、そうでない家はベッドの様だ。
 3日目の朝食時にテオがその話をすると、教授とボッシ事務官が笑った。中米では普通に両方の寝方があるのだ。寧ろ・・・

「あの女性少佐は変わり者なんですよ。」

とケサダ教授に言われてしまった。

「アンドレに聞いてみなさい、大統領警護隊は木に登って就寝など教えていない筈です。野外作戦の時に身を守る為に樹上で休むことはあるでしょうが、平時に木に登って寝たりしません。」

 別のテーブルでカタラーニ、運転手と一緒に食事をしていたギャラガが自分の名前が聞こえたので振り向いた。テオは何でもないよと手を振って見せた。ボッシ事務官が別の方向で興味を抱いてテオに質問した。

「ドクトルはその少佐とお付き合いされているのですか?」
「ああ・・・」

 テオはプライベイトな話をどこまでするべきか迷った。しかしケサダ教授は知っている筈だ。だから支障のない範囲で明かした。

「彼女と婚約しているんです。一応、親公認で・・・」
「それは、おめでとう!」

 ボッシ事務官はお気楽に祝福の言葉をくれた。テオは照れてみせた。
 検体採取3日目も何事もなく無事作業が終了した。住民の半分が採取に応じてくれたことになった。採取リストを見て、ボッシ事務官がちょっと考え込んだ。

「ペドロ・コボスの母親と兄はまだ来ていません。狩猟民の家だと聞いているので、カブラ族の末裔の可能性があるのですが。」

 カブラ族がセルバと隣国の両方に分布していた証拠を確認する為の検体採取だ。コボスの家族が今回の調査の、セルバ共和国政府にとっての「本命」だった。大統領警護隊にはハエノキ村全員が「本命」だから、テオは黙っていた。
 ボッシ事務官がリストから顔を上げて、テオとケサダ教授に提案した。

「明日、シエスタの時間にコボスの家に行ってみましょう。どうせここから歩いて行ける距離です、用件は直ぐ済みますよ。」

 テオはちょっと気がかりなことがあった。

「コボスの家の者は、ペドロがセルバで殺されたことを良く思っていないんじゃないですか?」

 ボッシ事務官は村長から聞いた情報を思い出して首を振った。

「ペドロの母親は朦朧していて下の息子が死んだことを理解していない様です。上の息子は家に閉じこもって近所付き合いもしない。村長と警察が弟の死亡を伝えても部屋から出てこなかったそうです。」
「それじゃ、死んだペドロが一家を養っていたことになります。」
「そうです。しかし、村人が母親を憐れんで食べ物の差し入れをしているそうです。田舎では珍しくありません。少なくとも生きて行ける程度には助けてやっているのですよ。」

 テオは引きこもりの兄と言うホアン・コボスの存在が気になった。


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