「急に慌ただしく先輩達が出動になってしまったので、言いそびれたんですけどぉ・・・」
とマハルダ・デネロスが言った。翌日の夕方、テオが彼女を夕食に誘った時のことだった。ケツァル少佐、ロホ、アスル、それにギャラガがオフィスから出て行ってしまったのがお昼だった。デネロスは日曜日の官庁で1人で書類仕事をして、隣の文化・教育省、文化財・遺跡担当課の職員の応援も受けずになんとか週明けの分を先に片付けてしまった後だった。
テオは彼女といつものバルで2人で夕食前のツマミとワインを楽しんでいた。
「もうドクトルはご存知ですよね? アリアナに赤ちゃんが出来たこと・・・」
「スィ。少佐も知っている。2人で一緒に伝えられた。」
「それじゃ、名付け親も頼まれました?」
「少佐がね、女の子の場合に・・・」
「ドクトルは?」
「男の子はパパ・ロペスだよ。」
ああ・・・とデネロスは頷いた。
「そうなるでしょうね・・・」
「不満かい?」
テオが顔を覗き込むと、デネロスが苦笑した。
「私、名付け親になりたかったんです。」
「名前を考えているのか?」
「スィ。」
「それじゃ、少佐にその名前を言ってみたらどうだ?」
「駄目ですよ。それじゃ少佐が名付け親になれません。」
それなら、とテオはワインをごくりと飲んでから提案した。
「2人目はどうだい? 次の子供の時の名付け親の権利を予約しておくとか?」
デネロスが笑った。
「予約? 良いですね!」
彼女はワインを一気に飲み干した。
「ロペス少佐にもっと頑張って頂かないと。」
いつもの彼女らしくない物言いだ。恐らくネズミの捜索から仲間外れにされて、内心くさっているのだろう。テオは助っ人が来れば少しは気が紛れるだろうと思った。
「助っ人はいつから来るんだい?」
「月曜日の予定です。」
デネロスは余り期待していない。カルロ・ステファン大尉以外は誰が来ても考古学に関して素人だ。遺跡に関する知識を一から教えなければならない。その労力を想像して、今から疲れを感じているのだろう。
「飲み込みの早い人だと良いな。」
「遊撃班ですから、頭は良いと思いますよ。」
デネロスはワインのお代わりを注文した。
「ただ、偉そうにされると、こっちは嫌なんですよ。」
遊撃班は大統領警護隊のエリート集団だ。警備班などは見下されている感じがある。
「文化保護担当部もエリートだ。気負い負けするなよ。」
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