シエスタの時間は博物館も昼休みだ。そんな時に訪問すれば職員や学芸員は迷惑だろうが、見学者の邪魔をせずに済む。テオは午後の授業がないのでマハルダ・デネロス少尉を車に乗せてセルバ国立博物館へ行った。
デネロスの緑の鳥の徽章を見せると、入館料なしで中に入れてもらえた。2人は真っ直ぐ事務室へ行き、ドアを開いた。職員達は昼食に出かけており、残っているのは3人だけだった。デネロスは一番近くにいた初老の男性学芸員に徽章を見せて、
「呪術に詳しい人がいると館長から聞いて来ました。面会を希望します。」
と要請した。すると男性学芸員は一番奥の机でお手製と思えるサンドウィッチを食べている中年のメスティーソの女性学芸員を指した。
「マリア・アバスカルのことを館長が仰ったのなら、そうです、彼女が呪術の研究をしています。」
「グラシャス。」
テオとデネロスは部屋の奥へ進んだ。アバスカルはカップのコーヒーを飲みかけていたが、近づいてきた客に気がついて手をおろした。「こんにちは」とデネロスとテオは挨拶した。
「私は大統領警護隊文化保護担当部のデネロス少尉です。」
「俺はグラダ大学生物学部准教授のアルストです。」
アバスカルが微笑した。
「少尉も准教授も存じ上げています。時々ここを訪問されましたよね?」
「スィ。」
個別に紹介されたことはなかったが、何度か用事があって博物館に来ていたので、テオもデネロスも職員達に顔を覚えられていた。なにしろ気難しい館長を訪ねて来る人だ。誰も忘れたりしなかった。
「今日は館長から貴女を紹介されました。呪術の研究をされているとか・・・」
「スィ。呪術と言っても色々ありますが、どんな要件でしょう?」
テオは彼女の机の上の弁当を見た。
「先に食事を続けて下さい。俺達も外で食べて来ます。何時頃にお伺いするとよろしいですか?」
アバスカルは大きな茶色の目をくるりと回し、ちょっと考えた。
「この近所で食事が出来るお店は3軒だけです。食べ終わったら、私からお店へ伺います。お食事なさりながらで良ければですが?」
出来ればあまり部外者に聞かれたくない話だ。デネロスがテオを見た。テオは時計を見た。そして脅かすつもりはなかったが、声を低くして言った。
「館長の紹介と言う意味をお考えくださると嬉しいです。」
アバスカルがハッと目を見開いた。そして1日の予定表をめくった。
「午後2時迄でしたら、空いています。」
「では、出来るだけ早く戻って来ます。この場所でよろしいですか?」
「展示室の一番奥に客の休憩スペースがあります。そちらへお越し下さい。戻られたら、誰かが私に教えてくれますから。」
再会を約束して、テオとデネロスは博物館を一旦出た。
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