マハルダ・デネロス少尉はカルロ・ステファン大尉に”心話”でシショカからの電話の内容を伝えた。大尉は1秒ほど置いてからアドバイスした。
ーー少佐にすぐ連絡を取れ。
よほどの重大問題が発生した場合でなければ外にいる上官に電話をしてはいけないことになっている。シショカの事案とネズミの神様の盗難、どちらが重要だろうと思いつつ、デネロスはケツァル少佐の電話にかけてみた。運転中だったのか、5回の呼び出し音の後で少佐が電話に出た。
ーーケツァル・・・
「デネロスです。セニョール・シショカから少佐に何か用事があるとかで電話がかかって来ました。」
ーー何かとは何か?
「彼は何も教えてくれません。少佐がお留守ならロホはいないのか、とか、ムリリョ博士はどこにいるのか、とか・・・」
ケツァル少佐はあまり長く考え込まなかった。
ーー私から連絡してみます。グラシャス。
通話を終えて、デネロスは溜め息をついた。シショカの用事はきっと厄介なことなのだ。文化保護担当部や考古学博士を探しているのだから、考古学に関係するのかも知れない・・・
デネロスはふと嫌な予感がしてステファン大尉を振り返った。ステファン大尉も彼女を見た。
ーー同じことを考えたか?
とステファンが尋ねた。デネロスは頷いた。
ーーネズミの神様とシショカに何か接点が生じたのかも知れません。
ーー俺達から質問してもあのおっさんは答えてくれないだろう。だが、あいつが困っているのだとしたら、本当に厄介な問題に違いない。
シショカは”砂の民”だがムリリョ博士の手下ではないから、独自の判断で仕事をしている。その男が首領の判断を必要としているのだとすれば、正に厄介な問題が発生しているのだろう。
カルロ・ステファンもマハルダ・デネロスも好奇心がムラムラと湧いてきた。しかし業務途中で外出は許されないし、2人共昔からシショカと接触することをケツァル少佐から固く禁じられていた。
「少佐はあの人との話し合いを私達に教えて下さるかしら?」
「無理だろう。教えてくれるとしたら、それはことが全て終わってからだ。」
カルロ・ステファンは遊撃班の副指揮官らしく、素早く頭を切り替えた。
「さぁ、さっきの電話は忘れて仕事に戻ろう。」
デネロスは不満そうな顔だったが、仕事の優先順位を思い出し、書類の束をステファンの机に置いた。
「それじゃ、これをお昼ご飯の後で片付けて頂けます?」
「げっ!こんなにあるのか?」
「クエバ・ネグラ沖の海底遺跡の発掘調査関係です。モンタルボ教授が遺跡を細かく区切って調査されているので、区画ごとに申請書を提出されるんですよ。」
「一つにまとめて出せば良いものを・・・」
ステファンは書類をパラパラとめくって眺めた。そして溜め息をつくと、デネロスを振り返った。
「先に昼飯にしないか?」
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