2022/08/07

第8部 贈り物     15

  ケツァル少佐はシショカの顔を見ないで質問した。

「我々はこれからこの神像を遺跡から盗み出した犯人を探しますが、もし泥棒を突き止めたら、貴方はお仕事をされるおつもりでしょうか?」

 シショカが口元に不気味な微笑みを浮かべた。

「呪殺は掟破りですからな。一族が信仰していなくても、聖なる石を用いて作られた神像を冒涜しているのです、下衆は処分されて当然です。」

 そして彼は少佐とロホを交互に見た。

「貴方方が捕まえても、やはり評議会が極刑を言い渡すでしょう。どちらが情け深い処分か、お分かりかと思うが・・・」

 ロホがドアに手を掛けた。少佐がシショカに言った。

「報告は必ず致します。その神様を元の遺跡に戻さなければなりませんから、解決すればここへ参りましょう。犯人の名を告げるのはその時にします。」
「それで結構です。」

 ロホがドアを開いた。少佐が出て、彼もシショカに敬礼して外に出た。ドアを閉じると、少佐は既に階段に向かって歩いていた。廊下で待っていたアスルがロホが通るのを待ってから、最後尾をついて行った。
 3人は建設省の庁舎から出てしまう迄一言も喋らなかった。それぞれが乗って来た車に分乗し、文化・教育省へ走った。
 大統領警護隊文化保護担当部のオフィスでは、マハルダ・デネロス少尉とカルロ・ステファン大尉が申請書の審査と予算の編成を行っていた。ケツァル少佐がマルティネス大尉とクワコ中尉を伴って帰還すると、2人は立ち上がって敬礼した。少佐は返礼すると、デネロスにだけ、奥のエステベス大佐のプレートが下がっているドアの内側へ来いと合図した。ロホとアスルも彼女に続いたので、オフィスはステファン大尉だけになった。彼は書類の山を眺め、小さくため息をついた。所属班が異なるので、会議に呼ばれなかったのだ。ケツァル少佐はこう言う場合の線引きに厳しかった。元副官で弟でも、もう「部外者」なのだ。ステファンはちょっぴり寂しかった。
 エステベス大佐のプレートの部屋では、何も載っていないテーブルを囲んで4人の男女が椅子に座った。

「建設大臣宛に、アーバル・スァット様が送りつけられていました。」

と開口一番に少佐は事実を告げた。

「郵便で送られて来たと建設省の職員は言ったそうですが、荷札シールは偽造で、送り主も出鱈目でした。幸い大臣の私設秘書セニョール・シショカが箱から漂う霊気を察知して、彼自身のオフィスに荷物を隔離し、現在保護しています。送り主は神像を丁寧に扱っており、あの神様の扱い方を熟知していると思われます。恐らく大臣かその側近達が神像に間違った扱いをして祟られるのを期待した様です。」
「犯人は一族の人間と考えて宜しいですか?」

とアスルが質問した。少佐は微かに首を傾げた。

「そうとも言い切れません。アントニオ・バルデスもアーバル・スァット様の知識を持っていました。彼に神像を売りつけた盗掘者ロハナ・ロハスもあの神様の扱い方を知っていたので、彼女は盗み出した段階で呪われなかったのです。2人共”ティエラ”です。どこであの神様の知識を得たのか、調べる必要があります。」

 彼女はロホを振り返った。

「シショカは神像の扱い方を知っていますが、職員達が彼の不在時にあの部屋に入る可能性もあります。万が一に備えて、貴方は建設省の近辺で警戒に能りなさい。退屈な任務ですが、必要な役目です。」
「承知しました。」

 ロホは頷いた。少佐はアスルを見た。

「アーバル・スァット様が祀られている遺跡ピソム・カッカァに行って、盗掘が行われた時の様子を探りなさい。跳んでも良いですが、過去に長居しないこと。泥棒の顔を確認したら直ぐに戻りなさい。」
「承知しました。」

 少佐が顔を向けたので、デネロスはドキリとした。少佐が言った。

「文化保護担当部の窓口を暫く閉鎖します。」
「スィ!」

 デネロスはもう少しで嬉しそうな表情になるのを理性で抑えた。捜査に加えてもらえるのだ。

「貴女は博物館に行って、館長に最近ピソム・カッカァについて調べに来た人間がいなかったか、訊きなさい。館長に事情を話しても構いません。」
「承知しました。」
「アンドレはまだ戻りませんか?」
「デランテロ・オクタカスの病院から一回電話がありました。怪我人はまだ意識が戻らないので、待機しているそうです。」
「俺が過去に跳んだら、何が起きたかわかるさ。」

とアスルが言ったが、直ぐに付け足した。

「その怪我をした警備員が持っている情報が必要かも知れないがな。」

 少佐は腰を上げながら彼女自身の予定を言った。

「私はオルガ・グランデのバルデスに会って来ます。彼がネズミを使った時の経緯をもう一度はっきりさせる必要があります。アーバル・スァット様の威力を知っている人間がどの程度の範囲なのか、知っておかねばなりません。」


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