2022/09/02

第8部 探索      10

  面会室はコンクリート剥き出しの殺風景な部屋で、映画やドラマで見るようなガラスの仕切り等はなく、がらんとした部屋に机が5つ、それぞれ向かい合う位置に椅子が1脚ずつ置かれていた。好きな机で、と言われてカルロ・ステファン大尉が真ん中の机に直に腰掛けて待っていると、監房側のドアが開き、刑務官2名に挟まれる形で中年の白人女性が入って来た。両手は体の前で手錠が掛けられていた。ステファンが捕らえた時、彼女はぽっちゃり体型だったが、今は細くなって、外の世界にいた時より綺麗に見えた。窶れているように見えない。雑居房ではなく独居房で作業の時だけ他の囚人と一緒だと聞かされていたが、案外快適なムショ暮らしをしているのかも知れない。
 面会者が誰かは聞かされていなかった筈で、彼女は私服姿のステファン大尉を最初見た時、一瞬戸惑いの表情を見せた。誰?と言う顔だ。そして徐々に思い出した。
 刑務官に誘導されてステファンがいる机に近づくと、彼女は薄笑いを浮かべた。ステファンは無言で刑務官に彼女を座らせるよう指図した。彼女は肩を掴まれる前に自分から座った。ステファンは刑務官に退室するよう合図した。大統領警護隊なら1人でも大丈夫だ、逆らっても良いことはない、そんな表情で刑務官達は監房側のドアの向こうに消えた。尤も、監視カメラでこちらの様子は見張っている筈だ。

「オーラ!」

とロハスの方から声を掛けてきた。

「名前は知らないけど、私をひっ捕まえた緑の鳥さんよね?」

 この大きな態度はどこからくるのだろう。
 ステファンは名乗らなかった。面会者も着席を義務付けられていたが、彼は無視して立っていた。

「いかにも、大統領警護隊だ。聞きたいことがある。」
「商売の話だったら、収監前に散々喋らされたよ。」
「お前がミカエル・アンゲルスの家に送りつけた石像の件だ。」

 予想外だったらしく、ロハスは黙り込んだ。ステファンは続けた。

「金になる遺物はいくらでもあったのに、何故あの石像を選んだ?」

 ロハスはすぐに答えなかった。手錠をかけられたままの己の手を眺めていた。ステファンは畳み掛けた。

「ピソム・カッカァ遺跡に祀られているあの石像が、どんなものなのか、どこで知識を仕入れたのだ?」

 ロハスが顔を上げたが、先ほどの太々しさは影を潜めていた。ちょっと不安気に女は問い返した。

「それを言ったら、殺される。大統領警護隊は私を守ってくれるのかい?」
「誰に殺されるんだ? あの石像にか?」

 ロハスがブルっと体を震わせた。

「だから・・・守ってくれるなら言うよ。」

 ステファンは室内をぐるりと見回した。窓がない部屋だ。しかし、彼は言った。

「ここへ来てから、ソイツに見張られている気配はあったのか?」

 彼女は答えなかった。ステファンは言った。

「お前にあの石像のことを教えた人間が誰であろうと、この刑務所の中までお前を見張っているとは思えない。お前が捕まる前も、見張っていなかった筈だ。お前が誰に喋ろうが、ソイツはどうでも良いと思っているだろう。だからお前の様なつまらない犯罪者に神聖な石像の秘密を喋ったんだ。」

 すると、ロハスは元の強かな顔に戻った。

「それじゃ、私が何か喋ったら、その見返りはあるのかね?」




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第11部  紅い水晶     19

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