アスクラカンの市役所へ向かったアスル、デランテロ・オクタカス周辺でもう少しアルボレス・ロホス村の住人の手がかりを探すと言うデネロス少尉とギャラガ少尉と別れて、テオはグラダ・シティに戻った。空港に到着したのは午後も3時を過ぎた頃で、街はシエスタの真っ最中だった。予定時刻より半時間遅れて到着した航空機の乗客のチェックを済ませると、空港のゲイトはさっさと閉じられてしまった。国際線でなければ、シエスタ優先なのだ。
テオがロビーを歩いて出口に向かっていると、向かいから馴染みのある顔の男が近づいて来た。
「カルロ!」
「テオ、お帰りなさい。」
遊撃班から文化保護担当部に助っ人として出向しているステファン大尉が、テオの手を両手でがっしりと掴んだ。
「成り行きで文化保護担当部の任務に付き合って下さったそうで、大統領警護隊の隊員としてお礼申し上げます。」
と堅苦しい挨拶をしてから、彼はニヤッと笑った。
「たまには首都から離れて仲間と働くのも良いでしょ?」
「確かに!」
テオも苦笑した。久しぶりにアスルやギャラガ達と仕事が出来て嬉しかった。
「そっちはロハスに面会したんだってな?」
「スィ。強かな女ボスと言う印象を持っていましたが、会ってみると、普通の悪のオバはんでしたね。」
「まさか少佐と比較して言ってるんじゃないだろうな?」
「少佐は悪じゃありませんよ。」
2人は笑いながら駐車場へ出た。ステファンはテオの車で空港へ来ていた。勝手に使用されても何故か腹が立たない。テオにとって大統領警護隊文化保護担当部の隊員達は兄弟同然だった。彼等は車に乗り込んだ。運転はステファンが引き受けた。
「ネズミの神様はまだ建設省に置いてあるのか?」
「スィ。あの秘書のおっさんが後生大事に守っているそうです。」
ステファンはシショカの名前を口にすることを避けた。呼んでしまうと本人が実際に現れると言う迷信だろう。
ロホが建設省を見守っているのかと思ったら、彼はもうその任を解かれたとステファンが説明した。
「ネズミのお守りは秘書がしているので、少佐はおっさんに任せています。ロホは別件で実家に帰りました。」
「実家?」
「お父上に頼み事があるのです。」
それ以上ステファンは語らなかった。テオは深く追求しなかった。ロホの父親は”ヴェルデ・シエロ”の名家の当主で、ブーカ族の長老だ。ロホは滅多に家族の話を仲間にしないが、難しい術や儀式で質問がある時は実家に頼ることがあった。それは一族の最も重要なことは家長とその後継者のみが口伝で受け継がれる”ヴェルデ・シエロ”の慣習のせいで、6人兄弟の4番目の息子であるロホは、知らないことがあれば直接父親か長兄に訊かなければならないのだった。つまり、白人のテオには教えられないような、一族の秘密を聞きに行ったと言うことだ。
ステファンが車を走らせた先は、ケツァル少佐のアパートではなく、マカレオ通りのテオの以前の家、現在はアスルが住んでいる長屋の家だった。ステファンは本部外勤務の時はいつも姉のアパートでも実家でもなく、そこに寝泊まりしていた。
「晩飯は後で食べに出かけます。暫くここで休憩して下さい。」
テオの現在の自宅に行かないのは、少佐がまだアパートに戻っていないからだ。そして、恐らくこの日は家政婦のカーラが早く帰るのだ。ステファンとしては、姉の家(テオの家でもある)よりこちらの長屋の方が寛げるのだ。
テオは久しぶりに前の自宅に入った。すっかりアスル好みの家になっているだろうと想像したが、中身は殆ど変わっていなかった。アスルはただ寝て食事をするだけに使っている様子で、調度品も置き場所もカーテンも何も変わらなかった。アスルらしいと言えばそれまでだ、とテオは思った。ここを終の住処にするつもりはないのだろう。
リビングのソファに横になって少し昼寝をした。ステファンも床にクッションを置いて寝た。
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