「アラムは今、大統領警護隊の本部で治療を受け、取り調べを受けている。警備員をもし殺していたら、『大罪』を犯したことになるが、君と彼の証言から、警備員を負傷させたのはカスパル・シショカ・シュスに間違いないだろう。神様の像を呪いに使った罪があるが、人間に対する傷害などの罪は軽く済むかも知れない。これから本部へ君を連行するが、構わないな?」
ロホの言葉にアウロラ・チクチャンは頷いた。
「私は兄を刺した・・・きっと私がやったに違いない。でも兄に会いたい。監獄にぶち込まれる前に、アラムに一眼会わせて頂戴!」
それは、とアスルが言いかけたが、ロホが制した。
「確約出来ないが、上官に掛け合ってみよう。君達が一族の範疇に入るのかどうかもまだ未定だからな。」
「一族?」
キョトンとするアウロラの顔を見て、ギャラガが肩をすくめた。 アスルが誤魔化した。
「古い民族の血を引いている人々と言う意味さ。」
フワッと風が彼等の頬を撫でた。ロホは本部の建物の方を見た。軍服姿の男が2人やって来るのが見えた。1人は遊撃班の副指揮官カルロ・ステファン大尉だ。文化保護担当部の3人が固まっているのだ。本部の人間達がその存在に気がつかない筈がなかった。アウロラ・チクチャンの尋問はここまでだった。
遊撃班がそばへ来たので、ロホ、アスル、ギャラガは彼等に向き直り、敬礼した。遊撃班も立ち止まって敬礼を返した。訊かれる前にロホが報告した。
「この女性はアウロラ・チクチャン、自ら出頭した。」
アウロラが彼を見上げ、それから軍服姿の男達を見上げた。ステファン大尉がロホに尋ねた。
「尋問したのか?」
「彼女が進んで自供した。そちらで抑えている彼女の兄に面会を許可すると言う条件だ。」
「勝手なことを・・・」
と言いはしたが、ステファンは怒らなかった。いかにもロホらしい条件の出し方だ、と思った。アスルが言った。
「この女は”感応”に応えた。遊撃班のではなく、我々のだ。」
お前達の呼びかけ方が悪い、と暗に言った。ステファン大尉が苦笑し、部下はムッとした。大尉が大尉に言った。
「情報を分けてもらえるか?」
「スィ。」
ロホとステファンは互いの目を見つめ合った。一瞬で情報が伝えられた。ステファンは頷き、アウロラに話しかけた。
「アラム・チクチャンに面会を許可する。だから君は我々に協力するのだ。」
嫌だと言わせない勢いがあった。アウロラは頷き、立ち上がった。彼女を2人の遊撃班が挟んで立った。ロホが彼等に声を掛けた。
「我々は撤収する。ギャラガ少尉は官舎へ帰らせる。」
「ご苦労。」
彼等は再び敬礼を交わし合い、ステファン大尉がギャラガを見た。ギャラガは文化保護担当部の先輩達に声を掛けた。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
「ゆっくり眠れ。」
既に歩き始めた遊撃班とアウロラ・チクチャンの後ろを彼はついて行った。アスルがロホに囁き掛けた。
「そろそろアンドレも外で暮らした方が良いんじゃないか? 外の生活に慣れさせなきゃ。」
「それじゃ、お前の家に入れてやれよ。部屋はあるだろ?」
「あるが・・・」
テオの寝室が空いているのだ。大家の部屋だ。しかしテオはもうケツァル少佐のアパートの住人になった。空いたスペースに誰が入っても構わないと彼はアスルに言ったのだ。
「アンドレが俺と同居でも構わないって言うなら、誘ってみる。」
彼等はふとマハルダ・デネロス少尉はいつまで官舎暮らしを続けるのだろう、と思った。
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