マイロの寮の部屋には小さなバルコニーがあった。人が3人もいればいっぱいになる。隣を見ると、モンロイが時々Tシャツやパンツを干していた。他の部屋でも洗濯物を干すのに使われている様だ。反対側の部屋の住人は喫煙に使用していたので、干し物は彼が留守の時が良かった。
マイロもTシャツやタオルを干すのに使った。
チャパと旅行の打ち合わせを終えて部屋に戻り、旅支度を始めて間も無く、彼はそのバルコニーに動物がいることに気がついた。視線を感じたので振り向くと、ガラス戸の向こうに斑模様の大きな猫が座っていた。一瞬ヒョウかと思った。しかしヒョウにしては小柄で、ほっそりしていた。
マイロはガラス戸が半分開いていて、網戸になっていることを思い出した。ドキリとした。
「ヤァ」
と猫に声をかけてみた。猫は黙って彼を見返した。マイロは写真を撮ってやろうと思った。携帯電話をポケットから出そうとお尻に手を伸ばすと、猫が立ち上がった。細い長い脚だ。スリムでかっこいい。尾も長く、すらっとしていた。
「君の写真を撮るだけだよ。」
とマイロが言うと、猫は黙ってそっぽを向き、くるりと体の向きを変えて、次の瞬間素早く彼の視界から消えた。
ここは2階だ!
マイロは慌ててバルコニーへ出る戸を開いた。猫が消えた方向を見たが、猫がバルコニー伝いに走り去って、庭の立木に飛び移って姿を消すまで見送っただけだった。
その日の夜、アダン・モンロイと廊下で出会った時に、その話をすると、モンロイが首を傾げた。
「話を聞くと、そいつはマーゲイって野生の猫みたいだけど、この国でマーゲイがいるのは、僕の故郷のプンタ・マナ近辺で・・・」
急に彼は口をつぐんだ。マイロが次の言葉を待っていると、彼は苦笑して見せた。
「ラッキーだったな、珍しい物を見られて。」
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