そのまま時間が経つのを忘れてマイロはアルストと互いの研究の話を語り合った。話しながら、マイロはアルストが非常に頭脳明晰だと気がついた。専門用語は殆ど説明が不要なのだ。医学の知識はあまりないと言いながら、アルストは一度聞いたことを忘れないし、聞き返しもしない。マイロが行った実験や分析もその工程や目的を忽ち理解した。そして何が問題点なのかも聞くだけで分析して指摘してくれた。マイロは説明していたつもりが、いつの間にか教わる立場になっている己に気がついた。
この人は本当に政府の重要な研究機関に居たに違いない。だから外国人と恋愛して外国に移住することを政府は警戒し、阻止しようとしたのだろう。そして今も警戒されているんだ。
原虫の遺伝子の話を終える頃に、アルストが視線を店の入り口へ向け、ニッコリした。
「やっと俺の連れ達が勤務を終えた様です。」
マイロが振り返ると、若い男女が店に入って来るところだった。その一人は彼が知っている顔だった。
「あの彼は、考古学の学生のアンドレ・ギャラガ君じゃなかったですか?」
「スィ、俺の友人のアンドレです。」
「オルガ・グランデで僕が強盗に遭った時に、助けてくれた考古学者のチームにいましたよ。彼にも世話になりました。」
「存じています。彼から聞きました。」
新しい客の一団はアルストを見つけると近づいて来た。先住民の男性2名とメスティーソの女性1名、それに白人に見えるギャラガだ。アルストが片手を挙げて、「ヤァ」と挨拶した。女性が足早に近寄って来た。
「今日は、テオ。どうしたんです、今日は素敵な連れがいるんですね!」
陽気に目を輝かせて視線を向けて来たので、マイロはドキドキした。すごく可愛い女性だ。彼は思わず立ち上がった。
「アーノルド・マイロ、グラダ大学医学部微生物研究室で研究しています。アメリカの国立感染症センターから出向して来ています。専門はシャーガス病の予防対策の研究です。」
「お医者さんですか?」
「医師免許を持っていますが、臨床医ではありません。研究専門です。」
女性の後ろで一番身長が高い男性が咳払いした。とても綺麗な顔立ちの先住民の男だ。女性がペロッと舌を出した。
「いけない! あの、こちらは・・・」
彼女が後ろを振り返った。
「上官のマルティネス大尉です。それから・・・」
マルティネス中尉の隣の少し背が低い男性を指して、
「上官のクワコ中尉、それからこっちは・・・」
ギャラガを指した。
「後輩のギャラガ少尉です。私はデネロス少尉です。よろしく!」
アルストが笑った。
「マハルダ、何か忘れているぞ。」
「え? あ!」
デネロス少尉はそそっかしいのだろう、バツが悪そうに言い足した。
「私達は、大統領警護隊文化保護担当部です。それでぇ・・・指揮官は後から来ます。」
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