大統領警護隊と名乗ったからには、彼等は全員軍人なのだ。しかしマイロの目の前にいる若者達はTシャツにデニムパンツと言うラフな姿だった。ただ庶民と違うのは、彼等は薄手であるがジャケットを着ており、その下にホルダーに収まった拳銃を装備していたことだ。
セルバの軍人らしく彼等はマイロと握手してくれなかった。そして隣のテーブルに腰を落ち着けた。彼等が注文を始めたので、マイロは仕方なく席に腰を下ろした。アルストがクスッと笑った。
「まだセルバの習慣に慣れていないんでしょう?」
「そうです。助手から度々注意されますが、どうしても挨拶に握手をするものだと体が動いてしまう・・・」
「親しくなれば握手してもらえます。」
ギャラガと目が合った。少尉が質問してきた。
「もう強盗事件のショックは無くなりましたか?」
「有り難う、山の様な報告書と事情説明と電話でくたびれましたがね。」
だが別のショックを今経験したところだ。
「君は軍人だったんですね。てっきり学生かと思って・・・」
「学生です。通信制ですが。軍人と二足草鞋と言うより、軍務に必要なので勉強しています。」
「文化保護担当部は考古学の履修が必要なんですよ。」
とデネロス少尉が教えてくれた。
「私達は、我が国の文化遺産を守ることが任務です。遺跡発掘申請の審査や盗掘から遺跡を守る仕事をしています。だから普段はこんな格好でオフィスにいます。」
彼女は楽しそうに笑った。彼女の2人の上官はマイロに関心なさそうで、それぞれ携帯の画面を眺めていた。
「普段着で勤務出来るんですね。」
とマイロはオルガ・グランデから帰る時に同乗させた若い軍人を思い出して言った。
「西からこちらへ帰って来る時に、頼まれて大統領警護隊の隊員を1人車に乗せました。彼は軍服を着ていたなぁ。」
へぇっとアルストが反応した。
「頼まれて?」
「スィ、太平洋警備室とか言う部署から本部へ出かけるとか何とかで、その時に飛行機が飛べなかったんです。それでホテルを出る時に声をかけて来て・・・」
そこで初めてマイロは重大な謎に気がついた。
「どうして彼は僕がグラダ・シティに帰るって知ったんだろう? ホテルの前で待っていたかの様な・・・」
彼はドキリとした。カフェ・デ・オラスにいる4人の大統領警護隊の隊員達が無言で彼を見たからだ。
テオドール・アルストがその沈黙を破った。
「その隊員の名前は?」
「ブラス・オルニト少尉。」
「誰か知ってるか?」
アルストの問いに、クワコ中尉が頷いた。
「アスクラカン出身の警備班のヤツだ。以前時々サッカーの練習に来ていたが、最近顔を見ないと思ったら、太平洋警備室に転属していたのか。」
「良い人ですね。アスクラカンで実家に泊めてくれました。強盗に僕は所持金を盗られたので、助かりましたよ。」
「ガソリン代は出さなかったでしょ? その代わりの親切よ。」
とデネロス少尉が笑った。
するとマルティネス大尉が入り口に目を遣って呟いた。
「おっ、やっと指揮官殿がお出ましだ。」
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