アンドレ・ギャラガがグラダ大学考古学部のキャンプに歩いて戻ると、敷地の端っこで石の上に座ってケサダ教授が星を見上げていた。一見物思いに浸っている様に見えたが、実際は星の角度を測っているのだとギャラガにはわかった。セルバの古代遺跡は建築される向きが決まっている。それが地下墓地にも適用されているのかどうか、教授は計測しているのだ。地下墓地は見えないが、彼の頭の中には墓所の通路や遺体を置く棚の位置がしっかり入っていて、地上にいても己がどこの棚の上にいるのかわかっている。ギャラガは素直に恩師の能力を尊敬していた。自分は今遺跡の上にいるのか否かもわからないのだから。
彼が少し距離を置いて立って眺めていると、ケサダ教授が気がついて振り向いた。ギャラガは邪魔をしてしまったと思い、謝罪した。教授は黙って己の隣を指差した。座れと言うことだ。ギャラガは仕方なくそばへ行って石の上の恩師の隣に腰を下ろした。
「ドクトル・マイロはママコナが首都を虫の害から守護していることも、一族が地方の家を一軒ずつ守っていることも気がついていません。」
「気がつかれてたまるか。」
とケサダが苦笑した。
「虫にだけわかる微量の気だ。人間は感じない。」
「鉱山会社の社長はわかっている様です。だがあの男は喋らないでしょう。」
「口が固いから今日の地位を手に入れたのだ。あの男はあの男なりに己の街を守護しているのさ。」
ギャラガは彼を見た。
「先生はマイロが落ちて来ることがわかっていたのですか?」
「どう言う意味だね?」
「つまり・・・」
彼は少し躊躇った。恩師を怒らせたくなかったが、素直に言わなければもっと怒られるだろう。
「誰かが彼を粛清しようとしたことをご存じだったのかと・・・」
ハッと教授が短く笑った。
「私が連中の仕事を知る筈がない。それにあのアメリカ人は本当に只の強盗に襲われたのだ、アンドレ。偶然私が立っていたそばに通風孔があって、地上で強盗どもが話している声が聞こえてしまった。悪党どもはアメリカ人を殺すつもりだったが、彼はジャガーの牙のお守りを持っていた。だから強盗どもは彼を殺せず、仕方なく穴に捨てたのだ。直接手を下すのが怖かったのだろう。それがマイロにとっては幸いしたのだ。」
「牙のお守りですか・・・強盗を退ける力を持っている、かなり霊力の強い人の形見ですね。」
ギャラガは首を傾げた。
「マイロは何処でそんな物を手に入れたのでしょう。」
「さぁな・・・知りたければ君が自分で彼に訊いてみると良い。」
教授は再び空に目を向けた。
「アンドレ、ここの墓所も定型通りの向きで造られているぞ。」
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