2023/12/10

第10部  依頼人     7

  翌日、テオは研究室へ出勤し、早速分析結果を並べて比較していった。骨から抽出したD N Aと毛根から抽出したD N Aが違っていることを願ったが、何回見直しても同一人物のものとしか思えなかった。学生達にも読ませた。普通の人間がゲノムマップを読み解くには時間がかかる。しかし夕刻には彼等もテオと同じ結果を出した。

「先生、あの毛髪の持ち主は亡くなっていると言うことですね?」

 学生達が不安気な表情で彼を見た。テオは認めたくなかったが、明白な答えが出ている以上、頷かざるを得なかった。

「明後日、ロバートソン博士に連絡を入れよう。明日は鑑定証明書を作成する。君達もそれぞれ作って提出しなさい。いずれ君達も各自で依頼を受ける立場になれば作られねばならない。」

 金庫に鑑定結果マップを保管して、みんなで研究室を出た。学舎を出て駐車場に向かっていると、植え込みの陰で2人の考古学者が立ち話をしているのを見かけた。フィデル・ケサダ教授とハイメ・ンゲマ准教授の師弟だ。低い声で人目を憚るような雰囲気だったので、テオは気がつかないふりをして通り過ぎた。考古学部の事情など知ったことではなかったし、恐らく彼等は現在アンティオワカ遺跡の発掘に関わっていない筈だ。ロバートソン博士の助手の行方不明事件と無関係だろう。
 テオは自分の車に近づくとロック解除して、後部トランクを開いた。そこに研究資料が入った鞄を入れ、トランクを閉じた。そしていつの間にか横にケサダ教授が立っていることに気がついて、ちょっとびっくりした。

「こんばんは。」

と教授が声を掛けてきた。

「少し時間を頂いてよろしいか?」

 

0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     18

  ディエゴ・トーレスの顔は蒼白で生気がなかった。ケツァル少佐とロホは暫く彼の手から転がり落ちた紅い水晶のような物を見ていたが、やがてどちらが先ともなく我に帰った。少佐がギャラガを呼んだ。アンドレ・ギャラガ少尉が階段を駆け上がって来た。 「アンドレ、階下に誰かいましたか?」 「ノ...