2023/12/15

第10部  依頼人     12

  ロバートソン博士に骨の鑑定結果を告げるのは、ちょっと辛かった。事故や自然災害の犠牲者の鑑定ではなく、殺人事件と思われるものだ。テオはそれをセルバ野生生物保護協会の本部ビルまで出向いて報告した。遺伝子を抽出した学生を連れて行ったが、ことが重大なので、学生ではなく彼が自分で分析結果を説明した。学生がそれを一言も聞き逃すまいと耳を傾けていた。彼も将来警察関係の機関でそう言う職に就きたいと希望しているのだ。警察なら分析結果を遺族に伝えるのは警察官の仕事だろうと思えたが、セルバ共和国の警察は難しい科学的な話が必要な時は学者に丸投げしてくる。だからテオは学生にも報告を聞かせて勉強させた。
 ロバートソン博士と他の協会員達は沈痛な面持ちで話を聞いていた。寄付金と政府からの僅かな補助で運営されている団体の本部は煩雑で、それでありながら質素だった。飾り気がない。動物や植物の資料が所狭しと置かれていて、その中に机がある感じだ。

「イスマエルは亡くなっているのですね。」

とロバートソン博士の秘書が最初に口を開いた。彼の横にいた女性協会員がワッと泣き出した。博士は唇をグッと噛み締めて耐えていた。

「死因は・・・ああ、骨片だけではわかりませんね。」

 秘書は別の協会員の方を見た。

「骨を全部お見せした方が良いでしょうか?」
「ノ、それは意味がありません。」

 テオは急いで断った。

「私どもの研究室は遺伝子工学を専攻している学生の場所です。骨の傷などの分析は医学の方の仕事です。私達には、死因を解明することは出来ません。」
「生物学部ですから・・・」

 と学生が口を挟んだ。

「何の動物に食われたか、とかは骨に残った歯型でわかりますが・・・」
「余計なことを言うな。」

 テオは学生を嗜めた。

「ここの人達はそっちのプロだ。俺達以上に動物のことには詳しいさ。」

 ロバートソン博士がハンカチで鼻をかんでから、口を開いた。

「わかりました、イスマエル・コロンが亡くなり、それが尋常な亡くなり方でないことがわかりました。きっと彼が探していた友人の、私達全員の友人でもある、オラシオ・サバンも無事ではないと推測されます。」
「どうされますか?」
「憲兵隊に連絡を入れます。」

 博士はキッと空中を見つめた。

「コロンとサバンを殺害した人間を突き止めてもらいます。」


0 件のコメント:

第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...