2023/12/17

第10部  依頼人     14

  ファビオ・キロス中尉の名前がアンドレ・ギャラガ少尉の口から出ると、テオとロホは思わず口笛を吹いてしまった。アスルはムッとした表情だ。文化保護担当部の大事な「妹」に手を出そうとしている男が、エリート集団遊撃班の精鋭だと知って、面白くないのだろう。だって、階級が上で遊撃班の精鋭なんて、揶揄えないじゃないか!

「あの野郎、いつマハルダに手を出したんだ?」
「いや、手を出したとかじゃなくて・・・」

 ギャラガは冷や汗をかき出した。

「食堂とか通路で出会うと声を掛け合う程度で・・・」
「そうだろ、本部で男女交際なんて不可能だ。」

とロホ。

「上官にバレたら、キロスは営倉行きだぞ。」
「ですから・・・」

 ギャラガはチラリとケツァル少佐を見た。しかし少佐が助け舟を出せる状況ではなかった。

「今日、あの2人にとって初めてのデートなんです。中尉がやっと休暇を取れたので・・・」
「するとこれから2ヶ月、2人はデートを続けるのか?」

 テオも思わず口を挟んでしまった。デネロスは彼にとっても可愛い女性友達だ。大学の休憩時間に顔を合わせれば一緒にお茶をするし、世間話は彼女がいつも話題を提供してくれる。彼女のお陰でテオは自分の学生達の話題に遅れずについて行けるのだ。

「毎日ってことじゃないでしょう。」

 ギャラガがムッとした。彼も勉強を教えてくれるデネロス少尉が、相手にしてくれなくなったら困る。彼女の方が1つ年下だが、大学生としては向こうが先輩だ。

「今夜はどこにいるのです?」

 少佐までが首を突っ込んで来た。ギャラガはデネロスが勤務中にチラリと見せた映画のチケットを思い出した。

「映画館だと思います。『ラ・ヨローナ 』(アメリカ映画)だったか、『ラ・ジョローナ』(コスタリカ映画)だったか、わかりませんが・・・」

 どちらも中南米の怪談を素材にしたホラー映画だ。テオもロホもアスルもケツァル少佐も、「きゃー!」と叫んで男性に抱きつくマハルダ・デネロスを一瞬想像し、すぐに「それはない、ない!」と頭の中で否定した。マハルダ・デネロスは幽霊が出たら、張り倒すほどの元気者だ。
 テオは携帯で上映中の映画館情報を検索した。

「コスタリカ映画は今やっていない。アメリカ映画の方だな。」
「多分、2人共、コメディを見る気分で座っているでしょうね。」

と少佐が言って、一同は笑った。

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第11部  紅い水晶     19

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