2023/12/19

第10部  依頼人     16

  アマール・デ・ペスカード、「魚肉の恋」とは変な名前だが、最近文化保護担当部の隊員達はこの店を気に入っている。南部のプンタ・マナ出身でグワマナ族系のメスティーソの夫婦が営む小さな食堂だ。つまり漁業が盛んな南部出身の、”ヴェルデ・シエロ”の血を引く夫婦が経営しているってことだ。大統領警護隊の任務の話は出来なくても、一族に関係した話なら出来る。テオは、夜間限定営業の小さな食堂の常連客が殆どメスティーソであることを、知っていた。互いに名乗らないが、恐らく彼等は”ヴェルデ・シエロ”の末裔だ。だから時々目で会話して、静かに食事や酒を楽しんでいた。
 料理を注文してから、テオはマハルダ・デネロスに尋ねた。

「映画に行かないのか? チケットを持っていたって、アンドレから聞いたけど?」

 デネロスが肩をすくめた。

「メルカドのくじ引きで当たったんですよ。行くとしたら週末ですけど、キロス中尉がお嫌いなら誰かに譲ります。」
「どんな映画?」

とキロス中尉。デネロスを挟んでテオとキロス中尉は並んで座っていた。テオの向かいはケツァル少佐で、その隣がロホ、アスルの順だ。ギャラガは端っこでまるで一番偉い人みたいな位置にいたが、末席だ。左側にキロス中尉、右にアスルがいた。

「ホラー映画です。」

とデネロスが説明した。

「夫の浮気に嫉妬した女が自分の子供を川で溺死させちゃって、それが現代の女性に呪いとして降り掛かるの・・・」

 けっとアスルが声を立てた。彼は好きでないのだろう。キロス中尉は彼を無視した。

「君は見たことあるの?」
「ノ、雑誌の映画の批評を読んだだけです。」

 デネロスは少佐を見た。

「今週末の軍事訓練はどうされますか?」

 ケツァル少佐はちょっと視線を天井に向けた。

「そうですね・・・アンティオワカに行ってみようかな、と考えていますが・・・」
「土曜日の軍事訓練は自由参加だよな?」

とテオが確認した。デネロスのデートを邪魔したくないじゃないか。ギャラガが尋ねた。

「遺跡の調査ですか?」
「宝探しだ。」

とロホが言った。 彼は声のトーンを落とした。

「死体を探す。」


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第11部  紅い水晶     19

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