2023/12/22

第10部  穢れの森     1

  週末、金曜日の夕刻、業務を終えたロホ、アスル、ギャラガ少尉の3人は1台の車で一足先に南部に向けて出発した。テオは彼等が車で出かけた理由がわからなかった。彼はケツァル少佐、デネロス少尉、それにキロス中尉と4人で空間通路を通ってアンティオワカ遺跡の近くへ行くことになっていたが、それは土曜日の早朝の約束だった。

「万が一、空間通路が使えなくなった時の足の確保です。」

と少佐が教えた。

「無理矢理詰め込めば7人乗れないことはないでしょう。」

 多分、ロホの中古のビートルではなく、大統領警備隊のジープで行ったのだろう、とテオは想像した。官舎に住んでいるギャラガ少尉が借用申請でも出したに違いない。
 旅の装備は簡単だった。少佐はいつもの軍務用リュックサックに必要最低限の物しか入れない。テオも見習って、自分用に買ってもらったリュックサックに下着とTシャツを3枚、検体採取用の容器を入れた保温箱、救急用品少々、それに携行食糧。水筒も忘れずに入れた。大統領警護隊みたいに水分を採取出来る植物を見分ける自信がなかった。
 少佐が虫除けスプレーをくれたので驚いた。”ヴェルデ・シエロ”がそばにいれば必要ないのだが。

「誤魔化しが必要な場合もあるやも知れません。」

と少佐が用心を説いた。

「貴方も他人の前でうっかり死者の声が聞こえたなどと言わないように。」
「聴きたくても聞けない時があるさ。」

 テオは霊媒師ではない。たまに死霊の声らしきものが聞こえるだけで、会話は出来ないし、話を聞き取ることも出来ない。しかし、死者の霊を見ることが出来ても声を聞けない”ヴェルデ・シエロ”達には妙にあてにされていた。特に、ケツァル少佐は幽霊が嫌いだ。襲ってくる悪霊は平気なのに、無害な、ただそこにいるだけの亡霊が嫌いなのだった。

「サバンが生きていれば何も見なくて済むだろう。彼の無事を祈ろう。」

 テオは少佐を励ました。

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第11部  紅い水晶     15

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