2023/12/21

第10部  依頼人     19

  ケツァル少佐は翌日、いつもの様に文化・教育省のオフィスで仕事をしていた時に、恩師ケサダ教授から呼び出しを受けた。珍しく電話をもらって、同じビルの1階で営業しているカフェ・デ・オラスに出向いた。
 教授は授業をどうしたのだろうと思いつつ店に入ると、奥のテーブルで彼がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。少佐は店のスタッフにコーヒーを注文し、教授のテーブルへ行った。

「ブエノス・ディアス。ご要件は?」

 教授が手で座れと合図した。少佐は素直に座った。教授が義父ムリリョ博士の家に”砂の民”が出入りしているとの情報をくれたのだ。恐らくそれに関する後報告だろうと思った。
 教授が黙って読んでいた新聞をテーブルの上に置いて、彼女の方へ向きを変えた。少佐はその記事を見た。
 セルバ野生生物保護協会の会員がジャングルで殺害され、憲兵隊が捜査に乗り出すと言う記事だった。

「ドクトル・アルストが骨の鑑定をしたことは知っていますね?」

と教授が尋ねた。少佐は「スィ」と肯定した。

「セルバ野生生物保護協会にとって、悲しい事件になりました。」
「もう一人行方不明になっていると書かれています。」
「オラシオ・サバン、恐らくブーカ族だと思われます。」
「ブーカ族です。」

とケサダ教授は言い切った。

「だから、義父とその手下達が動き始めました。コロン氏を殺害した者がサバンも害したとあの人達は考えています。」
「私も同じ考えです。それで・・・」

 少佐は囁いた。

「アンティオワカの遺跡の巡回に、次の週末、部下達と行ってきます。憲兵隊に遺跡を荒らされたくないので。」

 勿論、それは世間体の言い訳だ。教授が微かに心配そうな目をした。

「犯人探しは貴女と部下の仕事ではない。」
「承知しています。私達はサバンを探しに行きます。それ以上のことはしません。」
「本当にそうかな?」

 教授は意味深にはっきり微笑して見せた。

「義父が現場へ行くことはないと思うが、用心なさい。サバンが犯罪の被害者となっていると考えると、犯人は我々のことを知っているかも知れません。」


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第11部  紅い水晶     19

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