2023/12/06

第10部  依頼人     3

  その日の午後の授業がそろそろ始まろうかと言う頃、グラダ大学のカフェで生物学部遺伝子工学研究室の准教授テオドール・アルストは友人の考古学部教授フィデル・ケサダ教授と宗教学部教授ノエミ・トロ・ウリベ教授と共にお茶をしていた。シエスタで眠っていた脳を覚醒させるためだ。うんと濃いコーヒーを飲みながら、3人は次期学長選挙の予想を立てていた。テオは准教授だしセルバ国籍を取得してまだそんなに年数が経っていないから、選挙は問題外だ。ケサダとウリベ両教授は人望があるが、どちらも研究旅行などで大学を空けることが多いから、事務仕事が多い学長など無理な話だった。だから3人はお気楽に候補に上がっている他の教授達の批評をしていた。そこへ事務長が一人の女性を案内して近づいて来た。

「教授方、こんにちは。」

と事務長は挨拶して、礼儀として返事を待った。一番年長で女性のウリベ教授が代表して挨拶を返した。

「こんにちは、事務長。貴方がここへ顔を出すのは珍しいですね。」

 事務長は滅多に学生達が多いカフェにやって来ない。彼は真面目な顔で頷いた。

「お客を案内して来ました。アルスト准教授・・・」

 呼ばれてテオはわざとらしく彼を見た。事務長が後ろで控えていた女性を手招きして、紹介した。

「セルバ野生生物保護協会のロバートソンさんです。」
「ロバートソンです。宜しく。」

 白人女性だった。スペイン系ではない。テオは彼女にアメリカの匂いを嗅ぎ取った。服装がラフで活動的な運動部の学生が好んで着るシャツとボトムだが、中古のブランド物だと思われた。シャツの上に薄いベストを着ていて、胸に野生生物保護協会のロゴが入っていた。テオは立ち上がり、彼女が差し出した手を取り敢えず握って握手した。

「テオドール・アルストです。失礼ですが、アメリカの方ですか?」

 ロバートソンは頷いた。

「スィ、アメリカ人ですが、こちらの自然に魅せられてかれこれ10年程住んでいます。動物を密猟をから守る活動をしています。」

 彼女はテオをグッと見つめた。

「准教授に相談したいことがあって来ました。どこかでお話し出来ないでしょうか。」


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