低い棚の上に写真が数枚額に入れて飾られていた。ティコ・サバンの若い時のものだろうか、一緒に写っている女性は妻に違いない。息子3人と一緒に写っている5人家族の写真、それぞれの息子の成長した晴れの日の写真、どれを見ても特別な先住民の様子はなかった。サバン家は多くの”ヴェルデ・シエロ”がそうして来たように、周囲に上手く溶け込んで生きてきたのだ。
ティコ・サバンが水を入れたグラスを3つ持ってきた。お盆なしで上手に3つ、両手で支えて運んで来た。テオとロバートソンは礼を言ってグラスを受け取った。
「奥様は・・・?」
ロバートソン博士が尋ねかけると、サバンは素早く答えた。
「妻は昨年から体調が良くなくて、次男の家族と一緒にグラダ大学の近くのアパートに住んでいます。大学病院に通院するのに便利なので。」
もしかすると、彼は妻に息子の行方不明を告げていないのかも知れない。
「オラシオは長男です。」
とサバンは言った。
「あまり人付き合いの上手い人間ではなくて、動物の研究に明け暮れて森にばかり出かけていました。」
ロバートソン博士が申し訳なさそうな顔で言った。
「彼は本当に熱心な研究者で、私が一番頼りにしていた助手でした。」
過去形だ。サバンが彼女の顔を見た。
「息子は死んだのですね?」
ズバリと言われて、テオは深呼吸した。そして薄紙に包んだコイン型のお守りを出した。
「これはオラシオの物でしょうか? 熱を受けてかなり刻印が読みづらいですが、女神の名前が刻まれています。」
ティコ・サバンはそれを受け取り、紙を開いて中の物をつまみ上げた。じっと見つめた。
「同じ物を息子は持っていました。小さい頃に一度感謝祭の祭りで迷子になって、その後で妻が買い与えたのです。」
テオは箱を出した。
「それは、この中の骨と一緒に森の奥で埋められていました。」
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