2024/01/26

第10部  追跡       6

  仮に「アキレスの一味」と密猟者グループを呼ぶことにしよう。クレトと言う一味のメンバーが半月前、バルに現れた時蒼白な顔でグラスをまともに持てないほど震えていたと言う。幽霊でも見たかと揶揄われても返事をしなかった。それから彼等は人前に現れていない。

「恐らく、クレトとか言うヤツは、オラシオ・サバンが殺されてジャガーから人間に戻るところを目撃したに違いない。」

 とアスルはギャラガに囁いた。

「連中は自分達が神を殺したと知った。恐怖でサバンの遺体を穴に入れ、焼いて痕跡を消そうとしたんだ。土で埋めた後も、連中は不安で恐ろしかった。」
「それで神から逃れようと姿を消した・・・?」

 ギャラガの質問と言うより確認の問いかけに、アスルは頷いた。

「だがセルバ国内にいる限り、必ず神に見つけ出される、と連中は思っている。それなら、どこに隠れる?」
「”ヴェルデ・シエロ”はキリスト教にとっては異教の神です。だから”シエロ”から隠れるなら、教会では?」
「もし連中がそう考えたなら、短絡的だな。俺達はキリスト教会を怖いと思っていない。用がないから近づかないだけだ。」

 アスルは食堂内の警備兵達を見回した。大統領警護隊は警察組織ではないから、犯罪者を追いかけたりしない。少なくとも、命令がなければ検問所から出て捜索したりしない。それは陸軍の国境警備兵も同じだ。彼等の仕事は国境を守ることで、出国者に注意して目を見張らせるだけだ。

「ミーヤの教会に行ってみますか?」

とギャラガが提案した。アスルは頷き、2人は空になった食器を返却口に運んだ。ブリサ・フレータ少尉がカウンターの向こうで彼等の顔を見て微笑んだ。

「何か手がかりを掴んだと言いたそうな顔ですね。」
「手がかりではないが、探す場所のヒントを陸軍からもらった。」

 アスルは料理をする人間が好きだ。彼自身も料理をするのが好きだからだ。彼が珍しくフレータ少尉に向かって微笑みかけたので、ギャラガはびっくりした。彼女が小さな紙袋を出して、アスルに差し出した。

「お料理をされるとステファン大尉から以前お聞きしていたので、よろしければこれを使ってみて下さい。隣国から来る行商人から買った混合スパイスです。怪しい物は入っていませんよ。多分、中尉なら成分や割合をすぐに当てられると思います。魚のシチューに丁度良い味を作ってくれます。」

 アスルは素直に有り難く頂戴した。ギャラガは新しい料理のレパートリーが増えるんだな、と期待した。


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第11部  紅い水晶     20

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