2024/01/27

第10部  追跡       7

  憲兵隊にも配布するとかで手配書のコピーがたくさん置かれていたので、アスルとギャラガは2枚もらって、検問所の食堂を出た。そしてミーヤの街中を歩いて行った。隣国との往来に利用される大通りを中心に広がる細長い街だ。それに大きくない。セルバ共和国南部では観光都市プンタ・マナに次ぐ都市だが、どうしても田舎の印象は拭えない。首都グラダ・シティで育ったギャラガも、子供時代どこで過ごしたのか不明だが入隊以来ずっと首都を寝ぐらにしているアスルも、この街が洗練されていると思えなかった。しかし賑わっている。隣国の商人や買い出しの一般人が普通に検問所を出入りしている。セルバ側からも出かける人間が少なくない。物資はそれなりに豊かで雰囲気は陽気で活気に満ちていた。凶悪な殺人犯が隠れていそうに見えた。しかし密輸は行われるし、密入国もある。犯罪は普通に存在するのだ。
 ミーヤのカソリック教会はグラダ大聖堂に比べると小じんまりした田舎の教会に見えた。日曜の朝のミサが終わり、昼間は開放されていた。グラダ大聖堂と違って観光客は来ないが、地元民がいて、バザーの様な催し物をしているのが見えた。見たところ女性ばかりだ。

「殺人犯が隠れている様に見えません。」

とギャラガが囁いた。アスルは首を振った。

「いないだろうが、ちょっと俺たちの存在をアピールしておこう。」

 2人はジャングルから来たので、野戦服のままだった。アサルトライフルも持っていた。背中のリュックサックは遺跡発掘隊の監視業務で背負っているのを街の人々が何度も見ていたので、彼等が大統領警護隊であることは、胸の緑の鳥の徽章を見なくてもすぐにわかった。彼等が教会の中に入って行くと、洋服や小物の品定めをしていた女性達がチラリと彼等に視線をやったが、すぐに商品籠の方に顔を向けた。
 アスルは左回りに、ギャラガは右回りに壁に沿って歩いて行き、祭壇の前で合流した。

ーーここにはいません。
ーー奥の部屋を見てみよう。

 ”心話”で言葉を交わすと、2人はその場にいた人々に自分達はいないと思わせる幻視をかけた。恐らく女性達は、彼等は何時の間にか教会から出て行ったと思うだろう。
 2人は祭壇の横にあるドアを開き、司祭が使用する祭具室へ入って行った。

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第11部  紅い水晶     21

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