2024/01/30

第10部  追跡       10

  アスルが心を過去に飛ばして見た密猟者達の顔を、ケツァル少佐とロホは憲兵隊の手配リストと照合し、6人の中の5人は氏名を確定させた。憲兵隊にその写真を指摘して、2人は憲兵隊本部を出た。
 日曜日だ。ロホは自宅に帰って寝ますと言い、上官と別れた。上官の裏をかいて彼女の妹の家に行くなどと言う姑息な真似はしない男だ。本当に真っ直ぐアパートに帰ってシャワーを浴びて寝てしまった。
 ケツァル少佐も自宅へ帰った。テオが帰って来てリビングで寝ていたので、起こさずにおいた。彼女もシャワーを浴び、着替えて何か食べようと考えていると、テオが目を覚ました。

「おかえり。昼飯は食ったかい?」

 ノ、と彼女は答え、2人で食事に出かけた。午後2時を過ぎていたが、セルバでは遅いお昼にはならない。丁度12時頃に入店した客がのんびり出て来る時間で、2周目の客として彼等はイタリア人の店に入った。森の中での捜索の話やサバンの身元確認が所持品のお守りでなされたことを歩きながら語ったので、食事中は事件のことを忘れて食べることに専念した。
 山盛りのスパゲッティがみるみるうちに少佐の胃袋に収まっていくのをテオは愉快な気分で眺めた。彼女は超能力を使うと酷く空腹になる。それを補うために大量に食べるが、勿論彼女の体が健康な証だ。

「そう言えば、アリアナの出産はもうすぐでしたね。」

と少佐が話を振ってきた。テオは頷いた。

「順調なら今月末頃だって医者が言っているらしい。」
「病院で産むのですか?」
「夫婦はそのつもりだ。ロペス少佐は昔からの伝統的な出産方法で彼女が危険な状態になったりしたら助産師を引き裂いてやると言っていた。」

 少佐が噴き出した。

「シーロはあまり伝統的な作法を好まない人ですね。それに彼の実家は女手がいないので、出産後のアリアナや赤ちゃんの世話をする人もいないでしょう。ヘルパーを雇うのでしょうか。」
「そのつもりだろうけど・・・」

 すると少佐が提案した。

「私も病院が安全だと思います。一族の助産師もいますから、生まれて来る子供の扱いを任せて大丈夫でしょう。でも自宅に帰ったら、子供はミックスですから、ママコナの教えの声を聞けません。私が純血種のヘルパーを探してみましょう。」

 ”ヴェルデ・シエロ”の子供は生まれた時に大巫女ママコナのテレパシーで基本的な超能力の使い方を教えられる。テオは恐らくそれは脳波の使い方を調整されているのだろうと想像している。ミックスの子供はママコナの”声”を上手く受信出来ないので、脳波の調整が出来ず、超能力の基本的な使い方を学べないのだ。だから純血種から”出来損ない”などと蔑視されてしまうのだろう。純血種の父親は24時間子供の世話をする訳でないので、フォローが難しい。子供が言葉を理解出来る年齢になってから教育を始めるので、どうしても純血種に遅れてしまう。
 でも、最初から専属の純血種のヘルパーがいれば? ケツァル少佐はある意味実験を始めようとしていた。それは将来彼女が産むかも知れないテオの子供の為でもあった。


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第11部  紅い水晶     21

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