2024/02/10

第10部  追跡       18

  ロホが大学へ来たのは、電話を切ってから5分後だった。”空間通路”を通る訳にいかないので、車でやって来た。歩いても同じ時間で済む距離だ。ロホは仕事をアスルに引き継いで、車に乗って、大学の駐車場に車を置いて、と手順を踏んだので時間がそれぐらいかかったのだ。
 研究室のドアを開けるなり、テオは彼に尋ねた。

「掃除夫を見かけなかったか?」

 ロホは来た方角を振り返った。

「パティオで一人いました。」

 テオはすぐに部屋から出た。歩き出した彼の後ろを、ロホは無言でついて来た。学舎を出て、中庭に出た。芝生と低木の植え込みの向こうで、カートを置いて、ホルヘ・テナンが石畳の遊歩道を箒で掃いているのが見えた。
 テオは立ち止まり、ロホに説明した。

「彼の父親が密猟者だ。仲間が不思議な死に方をしたので、恐ろしくなり、住んでいた町を逃げ出して息子のアパートに転がり込んだらしい。親父の告白を聞いて、息子は仰天した。父親が密猟か何か良くないことをしていたことは薄々勘づいていたが、人を殺したと告白されて、彼も怖くなった。しかも父親は、ジャガーを撃って、そのジャガーが人間になった、と言ったそうだ。息子はどうすれば良いのか途方に暮れて、俺が大統領警護隊と親しいと噂されていることを思い出し、相談に来た。」
「父親はまだ息子のアパートにいるのですか?」
「わからない。俺は少佐に電話する直前に憲兵隊に通報した。少佐に教えられた憲兵隊の少尉に通報したんだ。まだ半時間経つか経たないかだ。」
「では、そっちは憲兵隊に任せましょう。」

 ロホは掃除夫を眺めた。

「彼の記憶から父親の話を消すのですね?」
「出来るかい?」
「まだ新しい記憶でしょうから、出来ます。でも、貴方と会話した内容も忘れてしまいますよ。」
「要するに1日分の記憶を消すんだな。」
「スィ。」
「今朝まで知らない者同士だった。だから今朝の会話を消されても彼と俺の関係に何ら支障はない。」

 ロホはわかった、と手で合図してパティオの中へ歩き出した。

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第11部  紅い水晶     19

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