2024/02/09

第10部  追跡       17

  ホルヘ・テナンが研究室から出て行き、たっぷり5分待ってから、テオはある人物に電話を掛けた。前夜、ケツァル少佐から、「もし事件に関連する情報があればここへ連絡を」と教えられた番号だった。10回近く呼び出しが鳴って、もう切ろうかと思った瞬間に相手が出た。

ーー憲兵隊本部、コーエン少尉・・・

 テオは素早く名乗った。

「グラダ大学のアルスト准教授。」

 それだけ言えば、相手はわかる、と少佐は言った。恐らく、”ヴェルデ・シエロ”の憲兵隊員だ。果たして、相手は「ああ」と声を出した。テオは挨拶抜きで要件を述べた。

「ジャガーを撃って、死体を焼いたと言う男の所在がわかった。」

 テナンから聞いたアパートの住所を告げた。長い説明はしない。相手が今誰と一緒にいるのか、何をしているところなのかわからないから。

「息子は大学で掃除夫をしている。その息子からの情報だ。息子は父親の言葉を信じていないが、恐ろしいので俺に相談に来た。」

 相手は短く言った。

ーー情報に感謝します。出来るだけ穏便に対処します。

 そして通話が切れた。
 テオは深呼吸した。テナンの父親が”砂の民”に発見される前に憲兵隊に確保されて欲しかった。あの掃除夫の若者がこれ以上泣くことがないように。

 そうだ、ホルヘの記憶を消さなければ!

 テオは急いで今度は少佐の番号に掛けた。少佐はすぐ出てくれたが、忙しかったのか、テオが名乗る前に、自分の電話をロホに投げ渡した様だ。男の声が応えた。

ーーロホです。
「アルストだ。頼みがある。ある人の記憶を消して欲しい。彼の命がかかっている。」

 親切なロホはテオの切羽詰まった声を正く理解してくれた。

ーー承知しました。どこへ行けば良いですか。
「すぐ来てもらえるなら、大学へ・・・」
ーー承知。

 通話が切れた。テオは椅子に深く腰掛けた。まだ昼前なのに、疲れた・・・。

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第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...