2024/02/11

第10部  追跡       19

  ロホが近づいて行くと、ホルヘ・テナンは少し警戒した様子で彼を見た。ロホは無言で緑色に輝く大統領警護隊の徽章を提示した。テナンはその場で固まった様だ。ロホは優しく声をかけながらさらに近づき、相手の目を見た。見ていたテオは少し冷たい風が吹くのを感じたが、それも一瞬のことだった。
 ロホがテナンから離れ、テオの元に戻って来た。

「1日分の記憶を消しました。でもまだ安心は出来ません。」

 彼は人文学舎の方向を見た。

「ムリリョ博士は今日は来られていますか?」
「それは確認していない。」
「彼に、息子は父親の罪と無関係だと知ってもらわなければ・・・」
「わかった。」

 テオは昼休みが近づいて人々が動き出した学内を歩いて行った。ロホはパティオの端に残った。テナンを暫く守るのだろう。
 考古学部は静かだった。もしムリリョ博士もケサダ教授もいなければ面倒だな、とテオは心配した。博士は”砂の民”の首領だから、彼を納得させればホルヘ・テナンは安全だ。彼の所在が不明ならケサダ教授に伝言を頼むか、居場所を教えてもらわねばならない。もしどちらもいなければ、掃除夫の身を案じなければならない。
 全くの幸運・・・学舎の入り口で、テオはまともにムリリョ博士と出会した。

「ブエノス・ディアス!」

 彼は思わず声を出した。博士はいつもの様にむっつりした顔で彼を見返しただけだった。

「貴方にお話を聞いて頂きたく、来ました。」

 テオが告げると、博士はチラリと彼の背後のパティオの方を見た。掃除夫を見たと言うより、ロホの存在を気にした様子だった。

「他人に聞かれて拙いことか?」

 博士が短く尋ねた。テオは「拙いです」と答えた。博士は顎で己の研究室の方を指した。

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第11部  紅い水晶     19

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