2024/02/29

第10部  粛清       12

  憲兵隊のコーエン少尉は、密猟者の自供を報告していた。

「テナンは腰を抜かしたそうです。目の前で何が起きたか理解できなかったらしく・・・」
「そうだろうな・・・」

とテオは頷いた。誰だって、撃ち殺したジャガーが人間に変化したら、肝を潰す。逃げ出すかも知れない。
 しかし密猟者達は逃げなかった。

「誰かが、『”ヴェルデ・シエロ”だ』と言うのを聞いたとテナンは言いました。」
「彼等は信じたのですか?」
「テナンと一緒にジャガーが人間になるのを目撃したのは、もう一人、キントーと言う男でした。この男は、ミーヤの教会裏の森で首を括りました。」
「すると残りの密猟者達は・・・」

 コーエン少尉が首を振った。

「連中は見ていなかった、とテナンは言っています。銃声を聞いて現場に集まって来て、サバンが死んでいるのを見ただけだと。」
「サバンは当然裸だったでしょう。」
「スィ。全裸だった筈です。森の中で全裸のインディヘナが死んでいる、その光景を残りの4人は見たのです。」
「裸であることを疑問に思わなかった?」
「そこまでは分かりません。ただ、仲間でない人間を殺してしまった、それだけは理解したのです。だから、連中は殺人の証拠隠滅を図り、サバンの遺体を焼きました。死体をそのまま埋めたのでは、後で動物が掘り返しますからね。」

 テオは聞いているだけで気分が悪くなった。犯罪の話はいつ聞いても胸が悪くなる。

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第11部  紅い水晶     19

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