コーエン少尉の報告は続いた。
「エンリケ・テナンは誰が死体を焼くことを提案したか、誰が穴を掘ったか、誰が火をつけたか、そう言う細かなことは言いませんでした。恐らく連中は計画的に行動したのではなく、目の前で起きた殺人、或いは神殺しに恐怖して恐慌状態に陥っていたに違いありません。」
テオはぼんやり思った。エンリケ・テナンがそんなにペラペラ喋ったのだろうか。コーエン少尉が”操心”で喋らせたのではないのか。兎に角、報告の内容に嘘はないのだろう。ケツァル少佐は何も質問せずに聞いていた。
「サバンを殺害して埋めた後、彼等は素知らぬ顔で生活を続けました。ボスには神殺しの報告をしなかった、とテナンは言っています。言っても信じてもらえないだろうし、神を殺したと言えば、ボスから処罰を受ける心配もあったのです。だが、恐怖心が消えた訳ではありませんでした。だから、次にイスマエル・コロンがサバンの行方を探して現れた時、先に述べたキントーと言う男がコロンを案内して森に誘導しました。テナン達は森で待ち伏せ、コロンを殺害しました。コロンはサバン殺害の手がかりを何も得ないまま、いきなり殺されてしまったのです。」
「酷い・・・」
と少佐が初めて呟いた。イスマエル・コロンが何か犯罪の形跡を見つけて、それが理由で殺されたと言うなら、まだ話はわかる。しかし、コロンは何も見付けなかった。森に連れて行かれ、そこでいきなり殺されたのだ。
「誰も反対しなかったんだな?」
とテオも確認のために尋ねた。コーエン少尉は首を振った。
「テナンはその点について何も言いませんでした。もう暗黙の了解でグラダ・シティから来るセルバ野生生物保護協会の人間を殺すと決めていたようです。」
「それはボスの指図だったのですか?」
「私も念を押して訊きましたが、ボスの指示を仰いだ感じはありませんでした。」
「コロンの遺体をあんな無残な姿にしたのは・・・」
「密猟した動物の解体と同じで、出来るだけ犯罪の痕跡を消そうとした様ですね。動物や虫に食わせて消してしまおうと・・・」
少尉は、ハッと吐き捨てるような息を出した。
「だから連中をいち早く発見した”砂”の連中が、幻影を見せつけたに違いありません。サバンとコロンの幽霊を・・・」
「それにしても、彼等が密猟者を見つけ出したのは、早過ぎると思いませんでしたか?」
とケツァル少佐。コーエン少尉とテオは彼女を見た。
「・・・と言うと?」
「誰かが密告したと?」
「まだ推測を話す段階でもありません。しかし・・・」
ケツァル少佐は視線を天井に向けた。
「ある方面から、サバンの父親が”砂の民”に粛清を依頼したらしいと言う情報を頂いています。」
ンゲマ准教授やケサダ教授達からの情報だ。テオも思い出した。サバンの父親が犯人を知っていたのだろうか? しかし彼がどうして・・・?
テオは少佐に言った。
「サバンの父親にもう一度会ってみたい。白人の俺一人では何も語ってくれないだろう。誰か同行してくれないか?」
少佐が名乗り出てくれるかと思ったが、彼女は憲兵の方を見た。
「少尉、貴方にお願い出来ますか?」
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