密猟者のグループは「アキレスの一味」と呼ばれているのだ、とコーエン少尉は教えてくれた。2人はティコ・サバンのアパートに向かう車内にいた。テオは他人の家を訪ねるには遅い時刻ではないかと心配したが、憲兵のコーエン少尉には自由時間が余り残されていなかった。
「ドクトル・アルスト」
とコーエン少尉が助手席で話しかけて来た。
「貴方は我々の一族のことを理解してくださっている稀な白人だとお聞きしています。」
「どこまで真の意味で理解出来ているかわからないが・・・」
テオは苦笑した。
「俺のことを大統領警護隊文化保護担当部の皆が理解してくれているから、俺も努力しているんです。」
すると、少尉はテオにとって懐かしい名前を出した。
「貴方はビト・バスコ曹長の事件の解決に協力して下さったと聞きました。」
「ああ・・・」
ビト・バスコ少尉は”ヴェルデ・シエロ”の憲兵だった。一卵性双生児の兄ビダル・バスコ少尉は大統領警護隊で、兄にコンプレックスを抱いていた。その細やかなコンプレックスの為に命を落としてしまった。だがその辺の事情は文化保護担当部と大統領警護隊司令部のごく一部の上官だけの秘密だった筈だ。コーエン少尉はバスコ曹長と親しかったのだろうか。
「少尉、貴方はビト・バスコ曹長と親しかったのですか?」
「ノ、所属していた部隊が違っていたので、顔は互いに知っていましたが、彼が一族の者であったと知ったのは、彼が亡くなった後です。彼と親しかった隊員が、彼と瓜二つの男が大統領警護隊の制服を着て街を歩いていたと噂を広めたのです。皆驚きましたが、それは彼が双子だったと知ったからで、私が驚いた理由とは違いました。」
「貴方はバスコが一族の一人だったと知ったから驚いたのですね。」
「スィ、肌が黒い一族の人間がいると聞いていましたが、身近にいたなんてね・・・残念です、彼の生前にそれを知っていれば、友達になれたかも知れません。」
もしそうなっていれば、ビト・バスコ曹長は兄に劣等感を抱かずに、今も生きていたかも知れない。兄の制服を無断で持ち出すことなく、”砂の民”シショカから粛清を受けずに済んだかも知れないのだ。
「コーエン少尉、貴方は”砂の民”が密猟者達を闇に葬っていくことをどう思われますか?」
テオの質問に、憲兵ははっきりと答えた。
「法律で裁ける犯罪者は、あんな殺し方をせずに捕まえて法の下で処罰するべきです。その為に憲兵隊や司法警察があるのですから。」
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