アコスタと別れて、テオは路駐していた自分の車に戻った。乗り込もうとした時、一人の男が通りの反対側を走って来るのに気がついた。オフィス街にはそぐわない、薄汚れた感じの人物だった。決してボロを着ているのではないが、何日も同じ服を着たまま、そんな風に見える男が右奥から全速力で走って来て、テオがいる向かい側を走り抜けようとした。何かに追われているのか、背後を振り返り、その為に近くを歩いていた紳士にぶつかりそうになった。
「オイ!」
と怒鳴られ、走って来た男はビクリとしてそっちを振り返り、弾みでよろめいた。
「危ない!」
思わずテオは叫んだ。同じ叫び声が通りの反対側にいた別の人からも発せられた、と思った。
走って来た男はよろめいたまま、車道にはみ出した。歩道の段差で転びそうになり、そこへ車が走って来た。
テオは目を瞑った。嫌なブレーキ音とドンっと何かがぶつかる鈍い音が響いた。
「事故だ!」
誰かが叫んでいた。テオは目を開き、現場を見た。車は数10メートル向こう迄進んで停車していた。歩道に跳ね飛ばされた男が倒れていた。路面に赤黒い液体が広がり始めた。
「救急車を呼べ!」
「早く救助を!」
通行人が集まり始め、テオも道を渡って現場へ駆け寄った。男は頭部を強打したのか、頭から血を流していた。目は開いていたが、光が消えていくのがわかった。
男のそばにかがみ込んだ男性が首を振った。
「駄目だ、救急車は間に合わない。」
テオは死んだ男が、ひどく田舎者っぽい服装であることに気がついた。それに車に衝突した衝撃で顔面が変形している様に思えたが、どこかで見た顔だとも思った。
それにしても、酷い事故だ。
テオは男が走って来た方角へ何気なく視線をやった。停車した車の運転手が真っ青な顔で下りて来るところだったが、その車の向こうに立っている人物が視界に入った。
純血種の先住民!
テオは根拠もなくゾッとした。”砂の民”だ。直感だった。慌てて視線を逸らし、犠牲者に目を向けた。
そうだ、この顔は手配書にあった密猟者だ・・・
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