2024/03/04

第10部  粛清       17

 「手がかり?!」

 前のめりになって質問したのはコーエン少尉だった。密猟者グループのボスを特定する手がかりだと言うのか? 
 ティコ・サバンは急がなかった。彼は若い憲兵と遺伝子学者を見た。

「息子は、セルバ野生生物保護協会の中に、密猟者に取り締まり情報を流している人間がいると推測していました。」
「なんだって?!」

と叫んだのはテオだった。セルバ野生生物保護協会は、会員を殺害された被害者ではないのか? オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの合同葬儀に集まった会員達は本当に悲しんでいたし、憤っていた。テオの目にはそう見えた。あの中に、悲しんでいる芝居をしていた人間がいたと言うのか?
 コーエン少尉は冷静に尋ねた。

「内部犯行と言うことですか? 保護協会が密猟者に情報を流して、何か得るものがあったのでしょうか?」

 すると長年地区の役場で勤めたと言うティコ・サバンは、元役人の顔で答えた。

「あの手の組織は基本的にボランティア団体です。どこか大企業などと手を結んで募金や寄付金で活動費を賄っています。セルバ野生生物保護協会も例外ではありません。息子は協会に寄付金を出していたのは、ロカ・エテルナ社だと言っていました。」

 え?とテオは内心かすかに動揺してしまった。ロカ・エテルナ社はセルバ共和国の建設業界の中で最大手だ。それに経営者はアブラーン・シメネス・デ・ムリリョ、考古学者ムリリョ博士の実の長男だ。
 ティコ・サバンは真面目な顔で続けた。

「ロカ・エテルナにすれば、企業イメージを良い方向にアップする為のパフォーマンスでしょう。しかし、企業の利益を生み出さなければ、寄付金を増額することはありません。逆に経営陣の中で自然保護対策に金を使うのは浪費に過ぎないと言う意見を持つ者もいるでしょう。そして実際にロカ・エテルナ社はセルバ野生生物保護協会に、来年度の寄付金を減額すると言う通知を出して来たのです。息子がアブラーンに失望したと腹を立てていたので、私も覚えています。」
「すると・・・」

 テオは頭を働かせた。

「寄付金を減らされると困る協会は密猟で資金繰りを・・・?」
「それは本末転倒だ。」

とコーエン少尉。

「第一、密猟で得る利益など、協会運営の資金全体から見れば微々たるものでしょう、ドクトル。」
「そうだなぁ・・・」

 テオはふと嫌な考えが頭に浮かんだ。

「まさか、密猟を増やして、危機感を世間に与え、ロカ・エテルナ社に考え直すよう促すつもりだった?」

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