2024/04/14

第10部  罪人        14

 「貴方がロバートソン博士の助命嘆願をしなかったのは意外でした。」

とケツァル少佐が言った。テオは彼女とアパートの彼女のスペースで2人で夕食を取っていた。彼は彼女にムリリョ博士との会談の内容を伝えたところだった。家政婦のカーラはこの日、子供の誕生会とかで仕事を休んでいたので、テオはピザの出前を取ったのだ。大判のピザを3枚、うち2枚は少佐が一人で食べるのだ。

「助命嘆願をする意味がないだろう。」

とテオはコーラをグラスに注ぎ入れながら言った。少佐はビールだ。彼女はあまりコーラを好まない。甘味料が多過ぎると言って、ライムソーダ等の天然果汁をソーダ水で割った方を好んだ。

「彼女はサバンの父親が息子とコロンの行方不明に騒ぎ出したと思い、先手を打って2人の捜索を官憲に依頼した。あの時の彼女の芝居に俺はすっかり騙された。彼女はあの時2人の協会員が既に殺害されていたことを知っていたし、もしかするとサバンは彼女の援助金横領を疑っていることを彼女に察知されて消されたかも知れないんだ。コロンも同様だ。彼女は直接殺害に手を下さなくても、原因を作った張本人だ。彼女と殺人の繋がりを証明する物が何もないし、証人もいないから、俺は悔しい。彼女がお金を全額返したとしても、殺害された2人は戻ってこないんだ。俺は彼女がアメリカに帰って悠々と生き延びることが許せない。本当は”砂の民”に頼んでアメリカまで彼女を追いかけて欲しいくらいだよ。」

 珍しくテオが憤っているので、少佐が憐れみの目で彼を見た。

「彼女がアメリカ人だから、悔しいのですね?」
「俺はもうセルバ人だ。だが、生まれたのはアメリカだからな。少なくとも法と秩序の国であって欲しい。」

 少佐が手を伸ばして彼の手に重ねた。

「彼女は生きていても信用を失くします。 ”砂の民”は標的の命を奪わなくても精神的に追い詰めることが出来ます。きっと帰国した後の彼女の周囲で、彼女の評判が急速に落ちていくことでしょう。」

 それはある意味、残酷な報復方法だった。テオは、だからそれで自分を納得させることにした。

「そうだな・・・もうあの女のことは忘れる。サバンとコロンの冥福だけを祈ることにするよ。」


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第11部  紅い水晶     21

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