セルバ国立民族博物館の展示室をエクはゆっくりと見物しながら歩いていた。きちんとシャツの上にネクタイを締めた白髪の男性が彼のそばに静かに近づいた。
「そちらは5世紀頃の遺跡から出土した祭祀具です。」
と男性が囁き、それからもっと低い声で彼等だけの言語で告げた。
「女は国外追放になった。実行者の男は明日裁判にかけられる。」
「有り難うございます。」
エクはガラスケースの中を見たまま答えた。
「私は今夜帰ります。これ以上追うのは私の役目ではありません。」
そしてスペイン語で言った。
「どんな祈りに使用された物でしょうか?」
「収穫の感謝でしょう。」
男性は祭具の盃に似た道具を指差した。
「生贄の血を入れた痕跡は見つかりませんでした。これは液体ではなく穀物を入れた物と考えられています。」
そして古い言葉に切り替えた。
「貴方の労に感謝する。」
エクは頭を垂れた。そしてゆっくりと顔を上げると、もう博物館の職員はいなかった。
エクは思った。外務省にも一族の者はいるだろうが、ピューマはいるのだろうか。もしいるのであれば、女を罰して欲しいものだ、と。しかし彼は深追いをしなかった。そして夜行バスに乗る前に何か腹ごしらえをしておこうと考えたのだった。
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