2024/04/22

第11部  紅い水晶     3

 「許可証を出すこと自体は問題ありませんが、お祖父様は貴女を同行して下さいますか?」

とケツァル少佐が少々興味本位の色を滲ませながら質問した。アンヘレスの祖父ムリリョ博士は堅物だ。純血至上主義者でアンドレ・ギャラガの様な異人種の血が混ざった”ヴェルデ・シエロ”を好ましく思っていない。ただギャラガはその勇気と素質で一族と認めてもらっている。他のミックスの同胞はなかなか受け入れてもらえない。気難しい人なのだ。彼が男女差別をしたと言う話は聞かないが、孫娘を何もない遺跡に連れて行ってくれるのだろうか。
 しかしアンヘレス・シメネス・ケサダは祖父に愛されていると言う自信があるのだろう。ニコニコして少佐に答えた。

「大人しくお行儀よくしていれば問題ないと思います。伯母のカサンドラ・シメネスも一緒ですから。」

 カサンドラ・シメネスはシメネスとムリリョ両家が経営するセルバ共和国で1・2を争う大手建設会社の副社長だ。ムリリョ博士の長女でもあり、建設会社の実力者でもあった。だが彼女の会社ロカ・エテルナ社は砂防ダムの建設に無関係の筈だが・・・。
 少佐が席を立ってカウンターのそばに来た。

「伯母上も行かれるのですか?」
「スィ。伯父と伯母の会社はダム建設に無関係ですが、どんな場所にどんな工事をするのか、実地を見たいと伯母が希望したのです。ですから、今回の旅行の本当の主催者は伯母で、祖父は便乗しているのです。」

 それにさらに便乗しているのが、アンヘレスだ。少佐もロホもギャラガも笑ってしまった。

「では、カサンドラ・シメネスも許可申請に来ますね?」
「伯母は遺跡には入らないそうです。山の地形を見ると言ってました。だから、許可証を取りに来るのは、祖父だけです。」

 少佐がギャラガを見た。目で「発行してあげなさい」と伝えた。ギャラガはパソコンに向かった。申請書のアプリを出し、必要項目を申請書を見ながら打ち込み、5分後にプリンターから許可証が吐き出された。プラスティックのカードにそれを貼り付け、ストラップと共に少女に手渡した。

「他の人への貸与は認めません。」
「わかりました。グラシャス!」

 アンヘレスは明るく微笑んでカードを受け取り、フロアから去って行った。
 ギャラガは上官達を見た。

「ところで、彼女の両親は承知しているのでしょうか?」

 少佐が首を傾げた。

「父親は知らないのではないですか? 彼女の話に一度も登場しませんでした。きっと母親の入れ知恵で、祖父より先に許可証を取得したかったのでしょう。」


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第11部  紅い水晶     13

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