2024/04/05

第10部  罪人        10

 「多分、ロバートソンは資金横領で協会から告訴されるでしょうね。」

とロホが夕食の時に言った。その夜、テオは大統領警護隊文化保護担当部の男達だけを、アパートの彼自身のスペースに呼んで食事をした。ケツァル少佐は会議を兼ねた夕食会で文化・教育省のお偉方と出かけて留守だ。マハルダ・デネロスは一緒にアパートへ来たが、スクーリングで出された宿題の論文を考えるので、彼女一人だけ少佐のスペースで食事だ。家政婦のカーラは料理をテオのスペースに運ばなければならず、アスルとテオが手伝った。一番下っ端のアンドレ・ギャラガは酒類を買うので遅れて来た。
 大尉で何も手伝わなかったロホが食事開始の合図をして、男達はビールを飲み、カーラ手作りの美味しい夕食を味わった。料理は全部出されていて、カーラは普段より早く帰宅した。デネロスは一人勉強しながら食べているのだ。

「俺は今でも彼女が密猟の黒幕だなんて信じられない。葬式で本当に泣いている様に見えたんだがな・・・」

 テオは悔しかった。ロバートソン博士とは何回か会ったし、話もした。彼女はサバンやコロンを心から悼んでいる様に見えたのだ。しかし大統領警護隊の友人達は冷めた眼で彼女を見ていた。

「別にあの女がアメリカ人だから、とか、白人だから、って訳じゃない、最初から胡散臭い雰囲気を感じていたんだ。」

とアスルが呟いた。ギャラガも頷いた。

「ああ言う団体はボランティアみたいなものでしょう? 協会員は手弁当であまりお金を持っていない。でも彼女は結構値が張る服を着ていました。Tシャツだってブランドものだったし・・・まぁ、金持ちの道楽でボランティアやってる人もいますけど。」

 テオはそちら方面の知識がないと言うか、無頓着な方なので、己の観察眼の無さに落胆した。

「君等は早い時期から彼女を疑っていたのか?」
「疑うと言うか、あまり信用出来ない人だな、と感じていたんです。」

とロホ。

「兎に角、彼女と密猟者を結ぶ確固たる証拠が出ないと、殺人事件と彼女は結びつけられないな。」
「真相を知る人間は”砂の民”が粛清しちまったし、あの女は絶対に口を割らないだろう。生きてアメリカに帰りたいだろうから。 詐欺容疑なら、刑期も知れている。」

 するとロホが暗い表情になった。

「きっとサバンの父親はそれを許さないだろう。”砂の民”も見逃したくないだろうな。」
「彼女の出所後に粛清するってか?」
「そんな悠長なことはしませんよ、きっと。」

 ロホはセルバの裏の社会の知識を持っている。彼はそうする必要もないのに、声を低くして囁いた。

「ロバートソンが刑務所に入ったら、囚人を動かしますよ。囚人同士の喧嘩で殺人が起きるのは珍しくありませんから。殺されなくても、彼女はきっと酷い目に遭わされます。」

 テオはゾッとした。するとギャラガも心配そうに言った。

「オラシオを実際に殺害したエンリケ・テナンも生きて出所は無理ですね? 動物と間違えて人を撃ったなら、殺人でも刑期はそう長くありません。他の囚人と接する機会も多い筈です。」

 囚人までは守れない。テオは気分が沈んだ。

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