2024/04/06

第10部  罪人        11

  翌日、テオは外務省出向の大統領警護隊シーロ・ロペス少佐に連絡を入れた。一緒にランチをしたいと言うと、ロペス少佐は義理の兄弟となったテオの申し出を断らずに、省庁が多いオフィス街のレストランを指定してくれた。ドレスコードは不要の店だと言われ、テオは失礼がないようシャツの上に薄いジャケットを着用して出かけた。研究室に常備している緊急準正装用だ。学長や学部長の気まぐれで突然食事会に招待された場合に備えての物で、今回はロペス少佐に頼み事があったので、きちんとした服装で行くべきだろうと思ったのだ。
 ジャケットを着て行って正解だった。指定された店はTシャツにジーンズで入れるような店ではなかった。「ラフな服装」の言葉の定義が世間とはちょっと違う。テオは真っ白な制服を着たウェイターに案内され、少佐が予約したテーブルに案内された。ロペス少佐は常連なのだろう、綺麗な花が咲く中庭に面したテラス席だった。そこに着席する間もなく、ロペス少佐も到着した。テオは挨拶した。

「ブエノス・ディアス! 俺が誘ったのに、こんな良い店を予約して頂いて、申し訳ない。」

 ロペス少佐が首を振った。

「ブエノス・ディアス! お気になさらずに。私が職場に近い場所をと我儘でここを選んだのです。さぁ、掛けて。」

 席に着きながら、テオはどんな高い店だろうと不安に思った。しかしメニューを渡されると、案外リーズナブルな値段だったので安心した。微かな彼の表情の変化で彼の心の中を読み取ったのだろう、ロペス少佐が可笑そうに笑った。

「店構えを見て、高級店だと思われたでしょう? 我々は初めての客で厄介な交渉相手の場合、ここへ案内して、メニューを見せずに注文するのです。相手はちょっと萎縮しますね。時には相手の料金も支払って恩を売ります。」
「それは・・・なかなかの外交手腕ですね。」

 テオもやっと緊張がほぐれた。料理を注文してから、テオは電話をかけた際に質問したことをもう一度することにした。一応セルバの礼儀だ。

「アリアナは順調ですか?」
「スィ。そろそろ臨月です。仕事を休ませて家でテレワークですよ。」

 少佐も電話と同じ返答をしてから、本題に入った。

「それで、私に頼みとは?」


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第11部  紅い水晶     21

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