2024/05/10

第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器を手にしていた。
 救急車の乗務員を門前で足止めしていたギャラガ少尉が2人に「2階だ」と告げた。リベロ少尉とサフラ少尉は彼に軽く敬礼して、家の中に入った。階段の下に来ると、階上からロホが声を掛けてきた。

「計測器を持つ者だけ上がって来い。もう一人はその場で待機。」

 サフラ少尉が一人で階段を上がった。そして倒れている男とそばに立っているケツァル少佐を見た。少佐に彼女が敬礼すると、少佐が頷き、

「放射線の有無を調べるだけだ。確認を取ったらすぐに下へ降りて待って欲しい。」

と言った。サフラ少尉は、少佐は部下達を放射線に曝したくないのだな、と理解した。電源を得てから、彼女は計測を開始した。しかし計器は電力を得てから一回「ポンッ」と音を立てただけだった。少尉が説明した。

「自然界にある放射線を感知しただけです。」

 ケツァル少佐が頷いた。サフラ少尉はトーレス技師の体を、頭から爪先まで端子で走査してみたが、計器は2、3回小さく音を立てただけだった。トーレスから放射線が出ている訳ではない。次に床に転がっている紅い石に端子を向けたが、やはり音はしなかった。
 ロホが彼女をトーレスの寝室に誘導し、トーレスが旅に持って行ったと思われる品々を測ってもらった。しかし放射線は検出されなかった。
 
「グラシャス。」

と少佐がサフラ少尉に言った。

「放射能の心配はありません。あなた方には無駄足を踏ませましたが、安全を確認するのに必要だったと理解して欲しい。」
「グラシャス、少佐。」

 サフラ少尉は敬礼した。

「では、本部に帰投します。」
「グラシャス、セプルベダ少佐によろしく。」

 ロホが彼女に伝言を頼んだ。

「救急隊にここへ来てくれるよう、伝えて欲しい。」
「承知しました!」

 サフラ少尉が軽々と階段を降りて行った。

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第11部  紅い水晶     24

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