アンドレ・ギャラガ少尉がケツァル少佐からの電話に出たのは、市民病院に到着して患者が院内に運び込まれた直後だった。
「ギャラガです。」
ーーケツァルです。今、どこですか?
「市民病院の救急搬入口です。患者は無事に病院内に入りました。」
すると少佐はそんなことはどうでも良いと言う声音で尋ねた。
ーー救急隊員はまだそこにいますか?
ギャラガは救急車の進入口を見た。既に空っぽだった。彼が患者の搬送に気を取られている間に、救急車は基地へ帰ったか、別の患者の元へ去ってしまったのだった。
「もういません。隊員に何か?」
ーートーレスが握っていた紅い石が紛失しました。廊下に落ちていたのは、サフラ少尉が放射線検知を行った時に見ました。それ以降誰も石を見ていないのです。
あちゃーっとギャラガは心の中で叫んだ。救急隊員は職務には真面目だが、稀に、患者の持ち物をちょろまかす人間がいることも確かだった。
「紅い石ですか?」
ギャラガはその石を見ていない。どんな赤なのか、どんな大きさなのか、どんな形なのか、知らなかった。少佐もそれを思い出したのだろう、説明してくれた。
ーー男性の手で握って隠せる大きさです。形は涙型、色は・・・新鮮な血が集まった様な色で、水晶に似た材質に思えました。
ギャラガは”心話”が電話で使えないことを残念に思った。”ヴェルデ・シエロ”は距離が開いた場合にテレパシーによる情報交換を使えない種族だ。呼びかけは出来るが、画像や映像を送ることは出来ない。出来るのはママコナ様だけだ。
「その石が、今回の出来事に関係しているのでしょうか?」
ーーわかりません。でもトーレスの衰弱の原因がその石である可能性があります。
「わかりました。すぐにさっきの救急車を探します。」
通話を終えたギャラガは近くを通りかかった病院スタッフに声をかけた。
「大統領警護隊だ。さっきここへ患者を運んで来た救急車は、どこに基地を持っている?」
0 件のコメント:
コメントを投稿