ケツァル少佐は近づいて来た高齢の考古学者に敬礼した。ムリリョ博士は小さく頷いて彼女の目を見た。少佐はトーレス邸であった出来事を伝えた。博士が小さな声で呟いた。
「石か・・・」
「石の正体をご存知ですか?」
少佐が期待を込めて尋ねると、博士は首を振った。
「ノ。我々の先祖の物ではないのだろう。」
少佐は駐車場の入り口を見たが、そこには誰もいなかった。
「ケサダ教授もお呼びしましたが、まだ来られませんね。授業中ですか?」
「あれは怒っているのだ。」
と博士が微かに皮肉っぽく笑った。
「自分の娘が危険のそばにいたのに、儂とカサンドラがその危険に気づけなかった、とな。」
それでケサダ教授の今朝の愛想のなさの理由が判明した。
「教授なら、あの石の異常さに気がつけたのでしょうか?」
少佐がちょっと意地悪な質問をすると、博士はまた皮肉っぽく笑った。
「無理だっただろうな。お前も技師の手から石が出て来るまでわからなかったのだろう?」
少佐は認めた。
「石を見た後も、あれが禍々しい物だと言う感触はありませんでした。でも、ママコナは・・・」
「”名を秘めた女”はピラミッドの力で感じたのだ。彼女自身の能力ではない。」
ケツァル少佐は”曙のピラミッド”が建つ方角を見た。
「ピラミッドに話が出来ると良いのですけどね・・・」
「はっ!」
と博士が声を発した。
「面白いことを言う女だ、お前は。しかし、その考えはあながち外れておらぬのだろう。ピラミッドの石達は、その砂漠の中にあった石が良くない物だとわかっているのだ。」
「あの紅い石は今迄眠っていたのですね?」
「恐らく技師の手に握られて目覚めたのだ。恐らく何らかの呪術に用いられたのだと思う。ラス・ラグナスが滅びる時に山に放置されたのだ。秘密を守るためか、あるいは人を守るためか・・・」
その時、やっとケサダ教授が歩いて来るのが見えた。
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