2024/05/20

第11部  紅い水晶     24

  ケツァル少佐は近づいて来た高齢の考古学者に敬礼した。ムリリョ博士は小さく頷いて彼女の目を見た。少佐はトーレス邸であった出来事を伝えた。博士が小さな声で呟いた。

「石か・・・」
「石の正体をご存知ですか?」

 少佐が期待を込めて尋ねると、博士は首を振った。

「ノ。我々の先祖の物ではないのだろう。」

 少佐は駐車場の入り口を見たが、そこには誰もいなかった。

「ケサダ教授もお呼びしましたが、まだ来られませんね。授業中ですか?」
「あれは怒っているのだ。」

と博士が微かに皮肉っぽく笑った。

「自分の娘が危険のそばにいたのに、儂とカサンドラがその危険に気づけなかった、とな。」

 それでケサダ教授の今朝の愛想のなさの理由が判明した。

「教授なら、あの石の異常さに気がつけたのでしょうか?」

 少佐がちょっと意地悪な質問をすると、博士はまた皮肉っぽく笑った。

「無理だっただろうな。お前も技師の手から石が出て来るまでわからなかったのだろう?」

 少佐は認めた。

「石を見た後も、あれが禍々しい物だと言う感触はありませんでした。でも、ママコナは・・・」
「”名を秘めた女”はピラミッドの力で感じたのだ。彼女自身の能力ではない。」

 ケツァル少佐は”曙のピラミッド”が建つ方角を見た。

「ピラミッドに話が出来ると良いのですけどね・・・」
「はっ!」

と博士が声を発した。

「面白いことを言う女だ、お前は。しかし、その考えはあながち外れておらぬのだろう。ピラミッドの石達は、その砂漠の中にあった石が良くない物だとわかっているのだ。」
「あの紅い石は今迄眠っていたのですね?」
「恐らく技師の手に握られて目覚めたのだ。恐らく何らかの呪術に用いられたのだと思う。ラス・ラグナスが滅びる時に山に放置されたのだ。秘密を守るためか、あるいは人を守るためか・・・」

 その時、やっとケサダ教授が歩いて来るのが見えた。

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