2024/05/20

第11部  紅い水晶     23

  ケツァル少佐はアンヘレス・シメネス・ケサダと別れて、グラダ大学へ向かった。シエスタの時間はとうに終わって午後の授業が始まっていた。車を駐車場に停めると、彼女はまずギャラガ少尉に電話をかけた。ギャラガはまだ救急隊員を捕まえていなかった。

ーー交通事故が発生して、トーレスを運んだ救急車も他の救急車と一緒にルート22に駆けつけているんです。トラック5台の事故で、怪我人が多数出ています。ちょっと隊員に声をかけられる状況じゃないですね。

とギャラガは少し弱音を吐いた。少佐はため息をついた。隊員が石を窃盗したかどうか、まだ確定していない。一刻も争う救命現場で疑いがあるだけの案件で邪魔をするのもどうかと思われた。

「わかりました。貴方はそのまま当該救急車を監視して下さい。隊員に余裕が出たと思えたらすぐに接触すること。”操心”を使っても構いません。」
ーー承知しました。

 次にロホに電話をかけた。ロホはトーレス邸に何も異常な物を発見出来なかったので、文化保護担当部のオフィスに戻るところだった。

ーー怪しいのは、あの石しかありません。私はオフィスを片付けてから、実家の父に石のことを訊いてみます。

 ロホの父はセルバ共和国でも権威ある祈祷師だ。 ”ヴェルデ・シエロ”社会だけでなく、普通の国家的行事に参加して神に祈りを捧げる仕事もしている。呪術や儀式の知識が豊富でその方面では生き字引の様な存在だった。少佐は「よろしく」と言って電話を切った。
 電話をポケットに入れてから、彼女は大きく深呼吸をして、それから”感応”で2人の考古学者に呼びかけた。大学の駐車場に来て欲しい、と。弟子の分際で師匠を呼びつけるのか、とムリリョ博士に叱られることを覚悟していた。最も博士が大学に出勤しているのかどうか知らなかったが。
 しかし、数分後、真っ先に駐車場の入り口に姿を現したのは、ファルゴ・デ・ムリリョ博士だった。少佐の車を見つけると真っ直ぐにやって来た。博士は、やはりあの技師のことを気にしているのだ。

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第11部  太古の血族       2

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